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 ロックバンドGEZANのフロントマンであり、小説執筆や映画出演、フリーフェスや反戦デモの主催など、さまざまな活動を行うマヒトゥ・ザ・ピーポーさん。3月8日には、彼が初めて監督を務めた映画『i ai(アイアイ)』が、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開された。映画の反響はすさまじく、火曜日まで満席の状態が続いているという。

 インタビュー前篇では映画の制作についてや、出演者・スタッフとのエピソードを聞いた。後篇でマヒト監督は、『i ai』を通じて見るこの世界について、映画でも描かれている生と死について、自身の思い語ってくれた。

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過去を大事にすることと、未来を生きることは同時にできるんじゃないか

――『i ai』の制作が決まったのは、コロナ禍が始まった頃かと思います。そんなご時世も、映画を制作するに至ったきっかけのひとつですか?

 そうですね。自分たちの大事にしてたものが、すごい速度でどんどん過去にされていくような感覚があって。ライブハウスとか映画館とか、当たり前に自分の居場所だったものが……もっと言えば、聖域だと思ってた場所が、平気で使えないものになっていった。もちろん、そこで起こるはずだった、人と人の営みも同時に失われていく。その光景を見ている中で、記録するということに、より自覚的になったのはありますね。

――タイトルの『i ai』は相逢=“もう一度逢う”という意味だそうですね。マヒトさんは『i ai』の制作ドキュメンタリーの中で「『思い出なんかいらない』と思ってたけど、最近は全然思わなくなってきた」とおっしゃっていましたが、過去に対する考え方が変わったのはなぜですか?

 自分が二十代だった頃は、今が全てだったし、今よりももっと未来が良くなるはずだと思ってて。今もその気持ちはありつつも、過去を大事にできない人って、今も大事にできないなと気付いたんです。時間って一方向に進んでるとも思ってなくて、過去も現在も未来も優劣がないんじゃないかなと。過去の自分に未来的なひらめきがあったり、だんだん年を重ねておじいちゃんやおばあちゃんになると、また赤ちゃんに近づいていったりするし。

 大事にしている“今”がそのまま過去になるんだったら、思い出のことも、未来と同じぐらい大事にしなきゃいけないよなって。思い出の中で大事にしたい時間や、人との関わりみたいなものが大きくなっていって……まあ、歳を取ったんだと思います。過去を大事にすることと、未来を生きるっていうことは、同時にできるんじゃないかなって。

2024.03.11(月)
文=石橋果奈
撮影=平松市聖