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 2024年3月15日から全国6都市にて順次開催する「TBSドキュメンタリー映画祭2024」。そのカルチャーセレクションとして、『映画 情熱大陸 土井善晴』が上映される。

 一汁一菜を提唱する土井善晴さんに密着し、追加取材を行った映画版ではさらに深く追った。料理が苦手、なにを食べたらいいかわからない、と迷う現代の人たちに、料理の哲学を指南している。

≫【後篇へつづく】「家庭料理の話をしないで」という高校生…土井善晴が“一汁一菜”で本当に伝えたい「自愛」のための料理


「今日は何をつくる?」を事前に考えない

――映画では全国各地をまわりながら取材をしたり、大学生や子どもたちに料理を教える様々な土井さんの姿が映されています。今回の映画をご覧になって、どんなことを感じましたか?

 客観的に自分を見ることって、こういうことでもないとなかなかないから新鮮でした。子どもたちや学生、おとな……いろんな人たちに向き合っている自分を見て、「案外ちゃんとやれてんねんな」って思いましたよ(笑)。たとえば同じ味噌汁について教えるのでも、伝え方はいくらでもあるから、相手が違ったら言い方も変えるでしょう? 考えてやっていたわけではないけど、相手に対してまっすぐ接することができてるんやなと。

――準備して台本通りに、というわけではないのですね。

 そうそう。準備しないです。料理する前とかね、ディレクターやカメラマンは「今日はなに作んねん」って知りたいでしょ。でも、ああしてこうしてって、その通りにするのはあんまり好きじゃない。今は特に34年間続いたテレビ番組(テレビ朝日「おかずのクッキング」)が終わって、縛られていたものから解放されて、自由に何を作ってもいい環境になったんです。今日はなに作ろうかな、なに喋ろうかなって、それがすごく楽しい。過去の自分に頼らないで、今の自分が作るんですから、いつも新しいものが生まれる。新しい自分が見たいのです。

――失敗することもありますか?

 時間に縛られて、無理をして、「間に合わない」「気に入らない」ことを失敗だとすれば、失敗は何度も経験しました。

 今はできることしかしない。ある時間にある食材で作るだけだから、制約がなくなって、料理の根本にある摂理を守ればいい。あとは楽しんだらいいんです。セオリーの中でいかに楽しめるかですね。ど真ん中のストライクじゃなく、コーナーギリギリのストライクを投げ込みたいみたいな感じです。人間は自分で気づくことで進化していくんです。歳を取って体力は落ちても、経験すればするほど感性は磨かれます。それを実感しています。ひとつの経験が、また新しい道を作ってくれます。

2024.03.09(土)
文=吉川愛歩
撮影=細田 忠