2024年3月15日から全国6都市にて順次開催する「TBSドキュメンタリー映画祭2024」。そのカルチャーセレクションとして、『映画 情熱大陸 土井善晴』が上映される。
一汁一菜を提唱する土井善晴さんに密着し、追加取材を行った映画版ではさらに深く追った。料理が苦手、なにを食べたらいいかわからない、と迷う現代の人たちに、料理の哲学を指南している。
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家庭のなかに「料理の評価」を持ち込むな
――土井さんは外食もなさるんですか?
しますよ。開発力はあんまりないから、たいてい決まったところに行きますが、レストランというのは家庭と違って、表現者と観客の関係なんです。しっかり味付けして出てくるのは、レストランのシェフが表現者だから。おいしいか好きかどうかは、観客が評価する。それを家庭に持ち込むから大変なことになるんです。
――家庭では評価をするべきではない、ということでしょうか。
世間からの影響を潜在的に受けて、「一汁一菜は料理とはいえない」とか、「こんなん料理か?」なんて家族に言われたり……。おいしいものを作るというシェフの「責任」と味が足りないとかまずいというレストランの「評価」する楽しみを、家庭のなかに持ち込んだ時代になっています。
でも、一汁一菜は自然物ですから、そうした表現者と観客のような関係は生まれない。何を作ろうかという悩みも、おいしさへプレッシャーもない世界です。お料理しない男性や子どもたちにも料理の意味を知ってもらう必要がありますね。そういう意味では多くの男性はまだまだ遅れています。
――どうして料理は難しい、と捉えてしまう人がいるのでしょうか。
やらない人が、一番とやかく言うのです。わからないから怖い。経験しないから難しいに逃げているのです。それにやらなくても、食べるものはいくらでも売っているわけですから、
料理する人を牽制したいというのもあると思います。でも実は、しっかり料理する人って案外多いんじゃないかと思っています。子供だって、試験前にわざわざ「たくさん勉強した~」なんて言わない、勉強しないふりをするでしょう。
まあ、難しい、大変だと思うのは、「味付け」を料理だと思っているんですね。味付けに責任があるのです。和食は味付けなんてしなくてもよくて、食べられるようにすればいい。
お刺身も天ぷらもそうでしょ。味付けなんて、わたしは酢とからしで食べるわとか、一人ひとりお皿の上で工夫すればいいんです。フランスでも、お皿のソースの絡め具合で塩加減を調整したり、自分で味付けしながら食べているんですよ。彼らの日常は、自分で切って、素材やソースを混ぜて、味を加減して、料理しながら食べているのです。レストランとは違います。だからお料理にプレッシャーなんてない。
日本人も昔は、しょうゆと酢、酒、塩とかを食卓に並べて、自分で味付けしながら食べていました。自分でクリエイションしながら料理を食べる、ということが基本だったんですね。食べる人が受け身すぎるんです。食べることはクリエーションなんです。
2024.03.09(土)
文=吉川愛歩
撮影=細田 忠