この記事の連載

過去を大事にすることと、未来を生きることは同時にできるんじゃないか

――森山未來さん演じるバンドマンのヒー兄は、GEZANと深い関わりがあった実在の人物がモデルですが、その方をモチーフに作品を作ろうと思ったのはなぜですか?

 GEZANというバンドにとって、最初の喪失だったからですかね。それと、表現をやっていると、数字に落とし込めるものだけが評価されて、数字に変換できないような残し方っていうのは、ないものとされがちだなと感じていて。ヒー兄を描くことは、自分としては今の時代に対するカウンターの気持ちもありますね。

 映画の制作中にGEZANのメンバーが抜けたり、この映画のサントラを一緒に演奏したOLAibiが、公開を待たずに亡くなったりして。そういうふうに、自分が出会った全ての人といつかお別れするっていうのは、どうやら事実らしい、と。その“死”っていうものを考えることは、自分たちが生きることや、人と関わっている現在がどういうものなのかを考え直すことでもあるなって。

 それは、今の戦争…というか虐殺に対しても思いますよ。死者数として積み上がっていく数字には、一人ひとり、ちゃんと血が流れて、体温があったんだって。この映画もヒー兄の話ではあるけど、きっと自分の身近な人を思い起こす人もいっぱいいると思う。そういう意味で、映画のエンドに向かって、ヒー兄の死を観客に手放していくようなイメージはありました。自分だけの個別のストーリーにはしたくなかった。

2024.03.11(月)
文=石橋果奈
撮影=平松市聖