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まるで漫画のよう?

 続いて、元ラガーマンの佐藤貴紀さんが姿を現した。彼はどんな風に飛ぶのだろう? ラグビー部の友人たちが軽々と佐藤さんを担いで、「そりゃー!!」と放り投げた。

 ラグビーボールを追いかけていた頃の血が騒いだのかどうかは分からないが、佐藤さん、高い!! 「トラーイ!!」と脳内アナウンスが聞こえてきそうな気迫のこもった大ジャンプである。

 さらに驚いたのは着地。きれいな放物線を描いた後、頭から真っ逆さまにズボッ! と雪にはまったのだ。もし雪がなかったら、頚椎骨折で命がないかもしれない。ふかふかな雪だからこそできる大ジャンプだが、まるで漫画のように垂直に頭から雪に突き刺さった人の姿を初めて見て私はちょっと感動した。

 崖下まで無事に? 転がり、バンザイをする佐藤さん。捨て身のジャンプに会場からは大きな歓声と拍手が飛んだ。

謎の行事の理由が分かった

「むこ投げ」を無事に終え、ほっとした表情の2組の夫妻をメディアが囲んだ。「おっ、これがテレビでよく見る『囲み』ってやつですね」と照れながらも4人は頭に雪をのせたままインタビューに応じていた。

 岡田文朗さんは「飛ぶ前は、カメラ目線で! と思っていたけど、あっという間に雪に埋まってしまいました。結婚生活、困難なこともあると思うけど、今日のことを思い出して2人で乗り越えたい」と語り、優美さんも「手を取り合ってがんばっていけたら」と答えた。

「角度も急で怖かったけれど、友人や家族たちが応援してくれたので身を任せて飛ぶことができました」と佐藤貴紀さんが語れば、史織さんは「夫婦生活、いいスタートを切れました」と微笑む。

 やっかみから始まったはずのむこ投げが、形を変えながらも続いている。そして今年も地元の子どもたちをわくわくさせ、地域の人々が新婚夫婦の幸せを願う。「変な行事だなあ」と思っていたが、冬の厳しい山あいの集落で元気な笑い声を聞いていると、300年も行事が続いている理由が分かる気がした。

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■旅メモ
あなたも「むこ投げ」に参加しよう!

前年に結婚した初婿を薬師堂の高さ約5メートルの境内から雪の斜面へ投げ落とす「むこ投げ」は、見学もできる。毎年1月15日に開催。また毎年11月末日まで、むこ投げ出場夫婦を一般募集。祭りの詳細や投げられたい「むこ」の応募は、十日町市観光協会HPへ https://www.tokamachishikankou.jp/

白石あづさ

ライター&フォトグラファー。3年にわたる世界放浪後、旅行誌や週刊誌を中心に執筆。著書にノンフィクション「お天道様は見てる 尾畠春夫のことば」「佐々井秀嶺、インドに笑う」(共に文藝春秋)、世界一周旅行エッセイ「世界のへんな肉」(新潮文庫)など。「おとなの週末」(講談社BC)本誌にて「白石あづさの奇天烈ミュージアム」、WEB版にて「世界のへんな夜」を連載中。X(旧Twitter) @Azusa_Shiraishi

次の話を読む新婚さんも警察官も真っ黒に? 「炭」を顔に塗りたくる 阿鼻叫喚の祭りへ行ってきた

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Column

白石あづさのパラレル紀行

「どうして世間にはこんな不思議なものがあるのだろう?」日本全国、南極から北朝鮮まで世界100か国をぐるぐると回って、珍しいものを見てきたライターの白石あづささんが、旅先で出会ったニッチなスポットや妙な体験談をご紹介。

2024.02.25(日)
文・撮影=白石あづさ