雪深い新潟県十日町市の松之山温泉で300年の歴史を持つ「むこ投げ」。自分の村の娘と結婚したよその村の「むこ」を腹いせに投げたことから始まったとされる奇祭である。今年選ばれた2組の「むこ」は果たして美しく無事に飛ぶことができるのか。前篇に続いてその世にも不思議な祭りの一部始終をレポートする。
飛んでも笑顔、転がっても笑顔
温泉街を練り歩き祝杯を挙げた「むこ」たちが、ついに崖の上に姿を現した。先行は、お母さんたっての願いで飛ぶ親孝行すぎる岡田文朗さんだ。「美しく飛びたい、飛ぶからには」とおっしゃっていた通り、指の先までピッときれいに伸ばして気合十分だ。
担ぎ手の仲間と地元の人数人が、「結婚の祝福とやっかみを込めて思い切って投げるぞ! いーち、にーの、さーん!!」と叫ぶ。そして、「やー!!」と、ぶん投げられた岡田さんが、ふわりと華麗に宙を舞った! 崖の上の子どもたちも、下から見上げている観客も大歓声だ。
お母さん、見てますか? 今、息子さん、めっちゃ笑って飛んでますよ!
どすん! と背中から落ちた岡田さん。その衝撃でぶわっ! と雪煙が立ち、あっという間に目の前が真っ白になり姿が見えなくなった。そしてゴロゴロとすごい勢いで転がりながら、妻の待つ崖下へ。
無事に大役を果たした「むこ」、はち切れんばかりの笑顔! そして雪だらけになった夫の手を優しく取り、ついた雪を払いねぎらう妻もいい笑顔! 雪をも溶かす熱々ぶりに、「おお~!」と、また盛り上がる。
300年前、憎っくき「むこ」を投げてすっきりしたはずの街の男衆は、「あなた、大丈夫?」「大丈夫さ」といった(?)熱々な光景に再び、地団駄踏んだんじゃないだろうか。
2024.02.25(日)
文・撮影=白石あづさ