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内田也哉子が「恥らいがあって古風。母のよう」と評す人

 この本の読み心地は温かくてひんやりとして、ダークで明るい。まさにアンビバレンツだ。読むまで、お名前も知らなかった写真家の石内都さんの対談は、掲載された写真も含め、匂いがくるくらいの強烈なインパクトがあり、写真集が欲しくなった。中野信子さんとマツコ・デラックスさんは、私の知らない一面を垣間見え、これまでの強いイメージに、繊細さが格子模様で見えてくるような感覚になった。

「マツコさん、恥じらいがあって、古風なんですよね。いつも間(あいだ)を取ろうとする。そういうところが母と似ているなと思って。お会いするまでそんな風に思っていなかったんですけど。不思議だなあと」

 しかしこの錚々たる面々と1対1で向き合うのだ。自分と立場を置き換え、シンプルに思う。緊張しなかったですか?

「うーん、出会えるワクワク感といいますか。たとえばマツコさんは座った途端、本質的なことをどんどん話してくださるんです。そこにいると、まるで大きな海にぷかぷか浮かんでいる感じ。心地よくて」

 大きな海にぷかぷか、の表現を聞き、私は、彼女が出す丸腰感にすべて合点がいった。み、見える。貝のかわりにメモとペンを持ったラッコ姿の也哉子さんが、対話という海にふわふわ漂う姿がありありと目に浮かぶ! ああ、すごく気持ちよさそうである。なるほど、也哉子さんはただただ身を任せ、出会いと言葉によってできる波を楽しむのだ。

「私は、会いたいと思った時点できっと何か、波動的なものが合うんじゃないか、と勝手に信じていて。だから怖い緊張感はないですね。この対談でも、誰しもが欠けている部分があり、それを満たし振り返ることもできる。そのままでいいんだ、と教えてもらいました」

 気が付けば15分経ち、インタビューは終了。お話を伺っているうちにだんだん私の情緒がどんどん安定していくという、めったにない現象が起こっていた。あのふんわりした口調と、独特のアルトの声のせいなのか。もしかするとこれが、彼女が言う「波動」なのだろうかも。

 早く続きを聞きたい。控室を出て会場に行くと、席はもうぎっしり埋まっている。

 トークイベントまであと10分、楽しみ!

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BLANK PAGE 空っぽを満たす旅

定価 1,760円(税込)
文藝春秋
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次の話を読む内田也哉子、異例の夫婦対談の裏に本木雅弘の“ぐうの音も出ない一言”9時間超の話し合いは「日常茶飯事」

2024.02.15(木)
文=田中 稲
撮影=佐藤 亘(ポートレート、書籍)、編集部(イベント風景)
ヘアメイク=渡邉ひかる(ambient)