仕事をして、家に帰って眠ってまた仕事をして……時には心が枯れてしまいそうな日常の中で、ときめいたり、悩んだり、そんな等身大の社会人たちの4つの物語。

SNSでの出会いをきっかけに…現代の恋愛を鮮やかに描く

『インターネット・ラヴ!』

 ネイリストとして東京で暮らす今どきの男の子、天馬。彼の5年越しのインスタ推し、韓国人のウノくん。しかし、ウノくんの生活にある変化が起こったことで、天馬のハッピーネトストライフにも急ブレーキが。画面越しに始まり画面越しに終わるはずだった恋は、はたしてーー?

 「今」という世界の不確さときらきらとした輝き、そこに生きる淋しさと心細さ、それをそっと汲み取ってくれるような、とても優しいお話。さらりと始まるのに存在という普遍の問いかけを通して不思議なほど心を震わせる、コロナ後だからこそ紡がれた物語ではないでしょうか。

大切だからこそ一歩が踏み出せない、大人のラブストーリー

『また明日会えるよ』

 やけ酒で酔いつぶれたサラリーマンの木村は、見知らぬ家で目を覚ます。倒れていた彼を運んで介抱してくれたのは国島という男で、実は他部署の同僚だった。連絡先の交換をきっかけに、飲みに行ったり、休日を一緒に過ごしたり、友達としてそんな日常を積み重ねる中で、二人の距離はだんだんと近づいていくがーー。

 「ゲイだから友達になれないとかあるんですか」子供のころから人と距離をとるようにして生きてきた木村と、マイペースだけれどフラットなものの見方ができる国島。国島が暮らす古い平屋で、庭を眺めながら過ごす二人の穏やかな時間。惹かれる気持ちはありながらも、相手を思い遣るからこそ踏み出せない、そんな奥ゆかしさが愛おしい、静かな大人のラブストーリーです。

「ただの上司と部下」が、ひとりの人間同士の関係に変わっていく

『40までにしたい10のこと』

 誕生日を3カ月後に控えた十条は、出来心で作った「40までにしたい10のこと」リストを部下の慶司に見られてしまう。実はお互い“隠れゲイ”、せっかくだから一緒にリスト達成を、と半ば強引に押し切られるが、10年以上恋さえしていなかった十条は戸惑うばかり。それでも慶司とリストのおかげで、単調だった日々が変わっていくーー。

 心が浮き立つような幸せな気持ちの一方で、もうすぐリストが終わってしまうことを淋しく思う十条。リア充・余裕綽々に見えて、案外切実な想いを抱えている慶司。その二人が、5年もの間、肩を並べて一緒に仕事をしてきた上司と部下だと思うと、冒頭のシーンに至るまでの過去のエピソードにも想像力をかきたてられます。

異世界転生×BLの新たな世界!

『異世界の沙汰は社畜次第』

 経理課の中間管理職として仕事に追われる近藤は誤って異世界に召喚される。間違いの代償として生活は保証され、働く必要もないのに、欲しいものを問われて「仕事」と即答。“横流し課”と揶揄される王国の経理課で文官として働くようになった近藤は、国の財政を崩壊させかねないトンデモ会計を精査し、聖域なき改革を行おうとするーー。

 近藤の「働くこと」に対する執着にあっけに取られていた周囲が、彼の仕事に対する態度や考え方に徐々に影響を受けていく「お仕事BL」のような面白さ、魔力に耐性がなく命を失いかけた近藤を治療したことがきっかけで急接近し、その後も甲斐甲斐しく世話を続ける若き騎士団長・アレシュとのプラトニック以上ロマンス未満の関係性など、わくわくする要素いっぱいの異色ファンタジーです。

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寺尾真紀(てらお・まき)ライター

英国オックスフォード大学実験心理学部卒。2020年冬『窮鼠はチーズの夢を見る』をきっかけにBLの世界へ。最初の1年で2,000作品ほど(コミックス+小説)を読み、2021年BLソムリエ検定に合格。京都在住。