BLを読んだことがない、あるいは、少し興味はあるけれど手が出せなかった――。そんな方に向けて、「男性同士の恋愛がテーマなんだ」という心づもりさえあれば、BLについてよく知らなくても物語を楽しめる、心の琴線に触れる、そんな作品を前回につづきご紹介。
思い切って読んでみたら、BLマンガってけっこう面白いかもしれません。
今回は、単行本になりたての2冊も含め、2022~3年に刊行された(あるいは最新刊が刊行された)作品を中心に、学生同士の甘酸っぱい恋から社会人の切ない恋まで、幅広く10作品を選びました。
学生時代に出会って恋に落ちた二人が、さまざまな悩みと向き合いながら大人になっていく。幸せになるための道を探す姿に勇気をもらえるような物語をまず3つ。
BLマンガの金字塔にして、はじめてでも読みやすい傑作
『同級生』シリーズ
男子校に通う金髪のバンドマン・草壁は、放課後ひとりで合唱祭の練習をするメガネの優等生・佐条に手伝いを申し出る。何もかも正反対の二人だが、苦手な歌を克服しようとする佐条のひたむきな姿に、草壁は急速に惹かれていく。草壁のまっすぐな想いに戸惑いながらも、佐条も少しずつ心を開いて――。
昨年10月に刊行された最新作『home』まで、14年という時間をかけて紡がれた『同級生』シリーズ。まだ高校生の二人が出会って運命とも言えるような恋をして、でもそれは始まりでしかなく、同性で付き合うことへの葛藤や、家族や友人との関係性、将来や進路の悩みと向き合い、ときには傷つきながら、ずっと一緒にいるための道を探し、困難を乗り越えようとしていくさまが、みずみずしい透明感で描かれています。
遠距離恋愛を切なく情熱的に、豊かに描く
『とめどなく、シュガー』
卒業式を控えたある夜、二丁目のトラブルから偶然救ったのは、嫌いだった大学の同級生。一夜の「励まし合い」から矢井田の意外な可愛さや一途な想いを知り心を動かされる仁科だが、矢井田は地元にUターンし家業を継ぐことが決まっていて――。
地元ではゲイであることを決して明かすつもりのない矢井田と、クールに見えて恋に熱く、好きな相手のことは隠したくない仁科。どんなに情熱的に身体をつないでも埋められない考え方、生き方の違い、遠距離のもどかしさなど、愛情表現も豊富で、BLらしいときめきに満ちた素敵な作品です。
今年SNSでも話題になった最新作
『カメレオンはてのひらに恋をする。』
表現することへの情熱は人一倍なのに「演技が大げさすぎる」と言われてばかりの劇団員・蒼井は、同じ大学の後輩でろう者のケイトと出会う。これまで耳で聴く世界しか知らなかった蒼井だが、伝えたいという気持ち、伝わる喜びを誰よりも分かり合えるケイトと、手話を架け橋に心を繋げていく。
難しいテーマにも臆さず、目で聴こえた、心が聴こえたという二人の喜びにこちらまでうれしくなるような、ポジティブなエネルギーにあふれた作品。物語はまだ始まったばかりですが、これから二人に何が起こるのかワクワクさせられます。言語としての手話の豊かさ、細やかさにも気づかされます。
2023.12.16(土)
文=寺尾真紀