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もはや「推し」が人間でなくてもいい

 そして、ついに結びの一番! 共に赤毛の横綱級の12歳のウシだ。東から入場したのは「権左衛門(ごんざえもん)」。若い時から大きい体格に恵まれていたそうで、実に堂々としている。その相手を務めるのは、一昨年、MVPを取った「泰斗(たいと)」。筋骨たくましい体と険しい顔つきからして、文句なしの横綱だ。

 土俵中央に向かい合わせた両牛、贔屓筋からのご祝儀も多く、長々とご贔屓たちの名前がアナウンスされている。どちらも男前……私の「推しウシ」はどちらにしようかと目を細めているうちに、鼻綱が青空を舞い、いきなりゴツン! と頭がぶつかるにぶい音が。

 先手必勝とばかりに先に仕掛けたのは権左衛門。しかし横綱の泰斗は「こんなの、大したことねえ!」とばかりに正面から堂々と攻撃を受けている。おお、すごい余裕だ!

 ところが、体の大きなウシ同士の本気の闘いは、怪我をするおそれがあったのか始まってすぐに引き分けに。物足りないものの、かわいいウシに何かあったら大変だから、これでよし。しかし、納得がいかないのはウシのほう。両雄、「止めてくれるな!」「俺はまだまだやれる!」とばかりになかなか離れず。

 ようやく最後のウシを引き離した勢子たち、無事に全取組が終わってほっとした表情になる。場内を時計回りに回る両牛に、今日一番の大きな拍手が送られた。このライバル対決は、次回に持ち越しになるのだろうか? 

2023.10.28(土)
文・撮影=白石あづさ