ウシが横を向いた理由とは
最初はどのウシも同じように見えていたが、次第に相撲の力士と同じようにそれぞれのクセや得意技がなんとなく分かってくる。力まかせにぶつかるウシ、鳴き声で威嚇するウシ、フェイントを繰り返すウシ、はしゃぎすぎて空回りしているウシなど、一頭として同じウシはいない。
なかでも、「和泉屋(いずみや)」と「大家一号(おおやいちごう)」の取り組みは面白かった。灰色の毛色の和泉屋が大きな角でプレッシャーをかけると、柵に押しやられそうになった大家一号はサッと体の向きを変え体を相手から離したのだ。
和泉屋、再び真正面から突進か? と思われたが、なぜかプイ! と体を横に向けてしまう。隙ができるとやられてしまうのに、もしや飽きてしまったのか? 会場がザワつくと、ここでアナウンスが。
「今、和泉屋は体を横にして『俺はこんなに体が大きいんだぞ!』と大家一号に見せつけています!」
プロレスで「俺はこんなにすごいぞ」とコーナーポストに上って威嚇するレスラーがいるけれど、ウシにも心理戦に長けた闘士がいるとは。
俺はまだ納得いってない!
さて、まだまだ闘いは続く。小千谷の闘牛の多くは岩手出身の南部牛なのだが、鹿児島の徳之島からやってきた12歳の「順の下(じゅんのした)」が登場。対戦相手の南部の黒牛「新五左衛門一号(しんござえもんいちごう)」も順の下も人間でいえば50歳から60歳くらいの12歳。いぶし銀同士の対決だ。
開始して間もなく、順の下の鋭い角が頭に当たってしまったのか、興奮した新五左衛門一号が体を離し場内をドドドと走っていく。
会場が騒然として「足、止めてえや~」と声がかかるも、猛スピードで走り回るためになかなかつかまらない。ようやく勢子が鼻をとるも、「俺は納得いってない!」とばかりにムオオオ! と鳴きながら抗議するウシたち。
小千谷では勝敗はつけないといっても、ベテランのウシたちには、どちらが優勢だったか本人……いや本牛には分かるらしい。勝ちを確信したウシはシッポを振って喜びながら帰るし、劣勢だったウシはしょんぼりとうなだれて家まで歩くのだという。
2023.10.28(土)
文・撮影=白石あづさ