昔ながらの路地にある 若者に人気の活版印刷工房
台湾では近年、活版印刷が再評価されており、アーティストやクリエイターの中には活版印刷の名刺を作る人が少なくありません。なかでおもしろい試みをしているのが、台北駅北側の路地にある活版印刷工房「一間印刷行」です。
オーナーの顏宏霖さんは元々建築家で、住宅デザインを手がけていましたが、「より多くの人たちに携わる仕事がしたい」とプロダクトデザイナーに転向。そのときに思い出したのが、大学院で学んでいた際に訪れた活字工房「日星鑄字行」でした。
日星鑄字行は50年を超える歴史をもつ、現在台湾で唯一の活字工房です。長らく衰退の一途をたどっていましたが、10年ほど前に有志たちが集まり、アーティストとコラボした展覧会を催すなど、さまざまな取り組みを始めました。その結果、今では若者や観光客がひっきりなしに訪れる人気店へと生まれ変わったのです。
日星鑄字行のボランティアスタッフのメンバーだった顏さんはその経験を通して、「せっかく活字を購入しても上手に活用できる人は多くない。誰でも手軽に活版印刷を楽しめるようにするには、どうすればいいのだろうか」という思いを抱くようになりました。
そこで開発されたのが、「一張名片(一枚の名刺)」という名のポータブル活版印刷機でした。これはその名のとおり、一枚ずつ名刺を印刷できる機具で、味わいのある名刺が簡単に出来上がります。
なお、活字は一間印刷行の斜め向かいにある日星鑄字行で購入するのですが、一間印刷行のスタッフにお願いして代わりに購入してもらうことも可能です。工房では活字の組み方を教えてもらったり、ポータブル活版印刷機を体験させてもらったりすることができます。
そのほか、店ではインクや手すきの紙、軽くて落としても壊れないプラスチック製の活字や活字スタンプなども販売中。いろいろなスタイルで活版印刷が楽しめるよう、商品の開発が進められています。活版印刷に興味がある方はもちろん、活字を見たことがないという方でも気軽に覗いてみてください。
2023.11.01(水)
文・撮影=片倉真理