作品を通してこの島のカタチを学ぶ

 今回の「馬祖ビエンナーレ」では、9つの異なる展示プログラムと70以上の作品が楽しめます。軍事用トンネルやトーチカ、防空壕など、馬祖ならではの軍事関連施設の跡地を用いた作品も少なくありません。普段は一般開放されていない場所もあるので、貴重な見学の機会でもあります。

 また、軍事管制区であったことで、抑圧され不自由だった暮らしの様子を伝える作品も数多くあり、この島が歩んできた歴史や文化を五感で体験することができます。

 馬祖と言えば「老酒」と呼ばれる地酒が知られていますが、今回のビエンナーレのテーマはこの醸造過程を表現した「生紅過夏」。「生紅」とは、もち米と紅麹を井戸水で発酵させたときに現れる紅桃色のこと、「過夏」は、これを大切に管理し、厳しい夏を乗り切ることを意味します。

 老酒が徐々に発酵してまろやかな風味になっていくように、このアートフェスティバルも時間をかけて生命力あふれる祭典になることが期待されています。

北竿島のアート作品

 まず訪れたのは、北竿島の后沃集落。壁だけが残った伝統家屋に村人たちの古着で作った紐をくくりつけた作品「陳衣往事」、古い瓦を子どもたちと一緒に色付けした「色彩代数符号」などがあります。これらは「再生」をテーマにした作品で、廃墟に彩りを添えています。

 島の北側にある橋仔集落。ここでは漁業用の倉庫や加工場として建てられた築100年の伝統家屋が展示場になっています。

 この建物に2階にある「漁光」という作品は、漁業が盛んだった頃の記憶を呼び起こすため、エビの群れを赤いセロハンで表現。天井から差し込む光によって色が変化するのが幻想的です。素材にセロハンを使用しているのは、「海洋廃棄物を減らすように」というメッセージを込めているからです。

2023.10.24(火)
文・撮影=片倉真理