台湾本島の北西に位置する馬祖列島。中国大陸に最も近い島で、わずか9キロメートルあまりの距離です。その地理的関係もあって、長らく軍事管制下に置かれていましたが、近年は島全体をアートの力で盛り上げようという動きがあります。
特に最近は、台湾初の島巡りアートフェスティバル「馬祖ビエンナーレ(馬祖國際藝術島)」が話題となっており、2回目を迎える今年は9月23日から11月12日まで開催中です。変わりゆく島の風景と、芸術の祭典についてリポートします。
台湾とは異なる文化が根付く馬祖列島
台北・松山空港から飛行機で約50分。眼下にゴツゴツとした島影が見えてくると、南竿空港に到着です。ここは長らく「戦地の島」として知られてきましたが、近年は観光地として整備が進められ、島に伝わる独自の文化と手つかずの自然が注目されています。
馬祖列島は主に、行政の中心である南竿島、大規模な伝統集落が残る北竿島のほか、東莒島、西莒島、東引島という5つの島で構成されています。台湾本島は福建南部の文化圏であるのに対し、馬祖は福建北部の文化圏に属します。
言葉はもちろん、伝統建築の様式にも相違が見られます。台湾本島では家屋に日干し煉瓦を用いていますが、馬祖では花崗岩を使用。全体的に白っぽい色合いの家屋なので、遠くから眺めると、欧州の家並みのようにも見えます。
馬祖はかつて漁業で栄えた歴史をもちますが、軍事管制区になると、島の風景は一変。魚の乱獲や生態系の変化もあって漁業は衰退。住民の多くは島を去り、過疎化が進みました。
しかし、近年は空き家となった家屋が民宿やレストラン、カフェとして整備されたりして、息を吹き返しています。
筆者が最初に馬祖を訪れたのは2007年。当時は南竿島にコンビニエンスストアが1軒ある程度で、観光客の姿はほとんど見かけませんでした。
そのときの取材では、馬祖を代表する画家・曹楷智さんを訪問。「子どもの頃はスケッチをするのも禁止されていましたが、今では芸術家たちが伝統家屋で創作活動をするようになっています」とうれしそうに話していたのが印象的でした。
現在はコンビニエンスストアや民宿、レストランも増え、2022年(※)には最初の「馬祖國際藝術島(馬祖ビエンナーレ)」が開催されました。
これは連江縣政府(県庁)と台湾文化の普及に努める非政府組織「中華文化総会」が共同で催したもの。これを機に芸術創造の場として関心を集め、アートの島へと変わりつつあります。
※当初は2021年に開催される予定でしたが、2022年に延期になりました。
2023.10.24(火)
文・撮影=片倉真理