南竿島のアート作品

 南竿島の入り江に面した梅石集落。ここはかつて、軍人たちが通うカラオケ店や娼館などが並ぶ歓楽街でした。

 寂れた通りには廃墟が並んでおり、これらの建物を利用した作品がいくつかあります。そのなかの一つが「植物微星球計畫」。手前の部屋では天井から植物がぶら下げられ、壁から噴射されたミストが霧の多い馬祖を表現しています。

 奥の部屋には丸形の水槽がぶら下がり、この中で馬祖特有の植物を特殊なゼリーで栽培しています。これは宇宙から見た馬祖の山や川、海を表しているとのこと。窓の外に見える風景と一体化し、宇宙とのつながりが感じられます。

 伝統家屋が数多く残る津沙集落の丘の上には、「開く」という作品があります。これは家の壁をイメージして高粱酒のボトルで作られたもの。実際に、老人たちがこうした壁を作る様子からインスピレーションを得たとのこと。地元の人たちの生活の知恵を伝える作品です。

 そのほか、南竿空港の滑走路の南端には軍事施設を改築した「26拠点」を利用したものもあります。ここのテーマは「地下実験室」で、軍事用トンネルの中にもいくつかの作品が展示されています。

 その一つが「緑の光」。これは夜陰に乗じて不法にイカ漁や砂の採取をする中国の船が放つ緑の光をモチーフにしています。キュレーターのエヴァ・リンさんによれば、水平線に浮かぶ緑の光は「馬祖オーロラ」と美しい名前で呼ばれていますが、自然生態系や地形に深刻な影響を及ぼすものであり、この作品は「馬祖オーロラ」がもたらす、そうした害悪に焦点を置いているそうです。

 かつて軍事集会所だった「山隴排練場」にあるのは、「收信快樂」という作品。「收信快樂」とは手紙の冒頭に使われる挨拶の言葉ですが、台湾本島と馬祖列島では手紙のやり取りに時間を要し(天候が荒れると1ヶ月かかることもあったとか)、かつ、軍事管制下では一般の人たちの手紙もランダムに検閲されていました。こうした重苦しい時代に生きた人々の生活や思いなどが伝わってくる作品です。

 馬祖境天后宮前の馬港海岸には古い船舶の部品で作られた鯨のオブジェがあります。これは花蓮に暮らす先住民族の芸術家・伊祐噶照さんによる作品です。軍事用地だったこの海岸はかつて遊泳が禁止されており、軍事管制が解除された現在も泳ぐ人は見かけません。そんな馬港海岸に設置されたこの作品には、「鯨のように大海に戻ってほしい」というメッセージが込められています。

海外アーティストの作品

 海外在住の芸術家の作品もあり、その一つがフランス人のエマ・デュソンさんによる「汝と向かい合え」。これは北竿島の「祈夢」という民間宗教に伝わる、夢の中で神様に質問し、お告げをもらうという儀式をモチーフにしたもの。

 この作品では、「いかに恐怖と向き合うか」という質問に、詩人や作家3人が歌で答えた映像が流れています。馬祖の住民の多くの母語である「閩東語」で歌われており、エマさん自身も閩東語を学んだとのこと。独特な響きが耳に残るはずです。めったに聴く機会がない言語なので、じっくりと耳を傾けてみてください。

 そして、日本からは京都を拠点に活動する高橋匡太さんも参加。島を訪れた際にチーフキュレーターの呉漢中さんから聞いた、「馬祖の人たちは雲の動きを見て生活している」という話にインスピレーションを得て、自身のシリーズである「雲の故郷へ」をもとにした作品を出展。

 馬祖の東莒島と香川県高松市の離島・男木島の小学校でワークショップを実施し、子どもたちに行ってみたい場所を書いてもらった紙を、風船に結び付けています。コロナ禍を経てより強く感じた、「移動できる自由」を表現しています。

2023.10.24(火)
文・撮影=片倉真理