第Ⅰ章は防衛研究所の千々和泰明主任研究官との対話で、開戦前に同氏が上梓された『戦争はいかに終結したか』(中公新書、二〇二一年)を肴にこの戦争の終わり方・終わらせ方について議論させてもらいました。ただ、千々和先生の本を読んでも、実際に議論してみても思うのは、ロシアとウクライナの戦争が終結へと至る道を描くのは本当に難しいということです。詳しくは対談の中身をお読みいただきたいと思いますが、キーワードとなる「現在の犠牲」と「将来の危険」のどちらを取っても、ロシア側・ウクライナ側双方ともになかなか武器を置けないだろうと想像されるからです。とはいえどんな戦争もいつかは終わるわけで、そのプロセスをなるべく早く・尚且つ公正なものとするヒントをこの対談からは数多く得ることができました。

 第Ⅱ章では、中国研究で有名な法政大学の熊倉潤教授と行った、中露の体制比較に関する対話を収録しています。中露はどちらも巨大な権威主義体制国家であり、アメリカをライバル視し、実際に軍事的対立も抱えているという関係であるため、何かと似たところが数多くあります。したがって、中露の似たところ探しをしていくとこれはどこまでも無限にやっていけるのですが、これにはちょっと違和感のようなものも前々から感じていました。中露が似ているのはそうだとして、では他の第三国と比べた場合はどうなのか。あるいは類似点だけでなく相違点にも目を向けたらどういう比較になるのか。第Ⅱ章ではこの辺を意識しながら熊倉先生にいろんなボールを投げてみたつもりです。

 結論から言えば、中露は似て非なる存在でありながら、同時に互いの存在を非常に意識し合う関係でもある、という複雑な中露関係像がこの対話からは再確認できました。この辺りの呼吸は日本人の外交観からするとなかなか掴みにくいものがあるでしょうが、熊倉先生は中ソ関係についての著書もあり、ロシア人の思考回路と中国人のそれとを行ったり来たりするような会話を繰り返す中で、読者の皆さんにも伝わるものがあるのではないかと思います。

2023.10.13(金)