第Ⅲ‐Ⅵ章は防衛研究所の高橋杉雄防衛政策研究室長との対談です。対談は二〇二三年春から夏くらいにかけて、四回にわたって行われており、この時期における戦争のタイムラインとして読むこともできるでしょう。こうして改めて振り返ってみると、年初以降のロシア軍のドンバス攻勢が(バフムトの占領といった戦術的成果を除いて)中途半端に終わり、続いて六月から始まったウクライナ軍の南部での反転攻勢ロシア軍の陣地帯を突破できず──という形で「激しくも停滞した戦争」という印象が浮かび上がってきます。その背景にあるのは、アメリカの優柔不断さであったり、侮れないロシアの軍需生産能力であったりするわけですが、突き詰めると「大国の持つ物理的強制力」みたいな古色蒼然たるパワーから我々は現在も逃れ得ていないということになるでしょう。
別の言い方をすると、ウクライナをめぐっては二〇二三年以降、大国間のパワーが一種の均衡状態に陥っており、なかなか決着がつかないということになります。それゆえにこの戦争は四年目が見えてくる、という我ながら実に陰鬱な見通しをここでは示したのですが、果たしてどうなるものか。
ちなみに高橋先生はこの後、防衛省本省との併任となった関係でメディア露出を控えることになり、私との対談は(当面の間)この四回が最後となりました。今回の戦争ではメディアでも頻繁にご一緒し、勝手に「ハイマース」というコンビ名まで命名していただけに(高橋先生が「ハイ」であるという説が有力)、実に残念ではあります。願わくば、高橋先生とまた対談できる時にはこの戦争を過去形で振り返っていられるならいいのですが。
「はじめに」より
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文藝春秋
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2023.10.13(金)