「見たことのない顔を撮りたいです」と言われ……

――演じた賢二はふり幅のある役でもあったと思うんですが、ほかにも演じていて印象的だったシーンはありましたか?

 工さんは「おひとり、おひとりの一番映しちゃいけない顔を撮りたいです」とおっしゃっていて、僕も一番最初に「見たことのない顔を撮りたいです」と言われました。僕に関しては、あの(トレーラーでも流れている)汗びっしゃびしゃになって、ハアハアしているシーンがそうなんです。

――当該シーン、どちらかと言うと窪田さんはお得意なほうかと思い拝見していたんですが、ご自身的にはどのような心境で臨んだんでしょうか?

 んー……いや、やっぱりそうなんですよね。正直、自分はこれまでのテイスト的に“陰”なほうを求められることが役的にすごく多くて、幸せな役があまりなかったんです。そこをやってきた自覚はずっとあったので、どこかこなしてしまっていたな、という部分はありました。だから、この作品をやる上では、とにかくそういうことを排除したくて。まっさらな気持ちでやりたいと臨みました。

 きっとそこの部分を計算されて、工さんは(作品に)呼んでくれたとも思っていたんです。今までやってきて「こんな感じのことをやっていればいいや」と自分で線引きをしたり、自分で「このくらいまでです」という提示は絶対にしないように、あのシーンをやる上でもずっと意識をしてやっていました。

――本当にまっさらな気持ちでやられたので、齊藤監督の希望する「見たことのない窪田さん」が引き出されたと。

 ……とは工さんは言っていましたけど、だいじょうぶかなぁ(笑)? やったほうはわからないのであれですけれど。ひとつ言えるのは、こうして振り返ると、お芝居させてもらっていた時間がすごく有意義でした。

 蓮佛(美沙子)さんの母としての母性、それでもだんだん壊れていく感覚や、奈緒さんの多様なお芝居にもすごく助けてもらいました。ある意味、理想的な“ホーム”ができたんじゃないかなという気持ちなので、楽しんで観ていただきたいです。

窪田正孝(くぼた・まさたか)

1988年生まれ。神奈川県出身。2006年に俳優デビュー。『ふがいない僕は空を見た』(2012)でヨコハマ映画祭最優秀新人賞、高崎映画祭最優秀助演男優賞を受賞。主演を務めたNHKテレビ小説『エール』ではエランドール賞を受賞するなど演技も高い評価を得ている。『ある男』(2022)では第77回毎日映画コンクール男優助演賞、第46回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞などを受賞。『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』(2023)で主演を務めるなど、ドラマ・映画・舞台の垣根を超えて活躍している。現在、映画『春に散る』公開中。『愛にイナズマ』の公開も控えている。

『スイート・マイホーム』

2023年9月1日(金)全国公開

出演:窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、中島 歩、里々佳、松角洋平、根岸季衣、窪塚洋介
監督:齊藤 工
原作:神津凛子「スイート・マイホーム」(講談社文庫)
脚本:倉持 裕
音楽:南方裕里衣
製作幹事・配給:日活 東京テアトル
制作プロダクション:日活 ジャンゴフィルム
企画協力:フラミンゴ
https://sweetmyhome.jp/
公式 Twitter:@sweetmyhome_jp

衣装クレジット

ジャケット 199,000円、シャツ239,800円、パンツ 134,000円(すべてルメール[エドストローム オフィス 03-6427-5901])

2023.08.31(木)
文=赤山恭子
撮影=佐藤亘
ヘアメイク=菅谷征起(GÁRA)  
スタイリスト=菊池陽之介(RIT inc.)