この記事の連載

組子を一人一人把握してきた、寿つかさの類稀なる頼もしさ

――その時代からお二人には通じるものがあったんですね。こうして今回またご一緒されるのもご縁ですね。

七海 お稽古場のすっしーさんもなんですけど、私は舞台上のすっしーさんをすごく尊敬していたというのもあるんです。自分がご一緒した舞台でもそうなのですが、自分が出ていない公演を観に行ったときに“寿つかさオーラ”みたいなものがあって! それって皆が出したいと思っているけど、なかなか出せるものではないと思うんです。

寿 あはは。そうでしたか?(笑)

七海 はい! そういう“存在感”というのは、他の方がその役をやっても出ないかもしれないけれど、すっしーさんだからできるし、よりその役を美味しくする、みたいな。役の調理方法を色々駆使されているのが素敵だなって、私はずっと思っていました。

寿 嬉しいですね。私もすぐに何でもできるタイプではなかったので、いろいろな方に教えてもらって歩んできたんです。そこで掴めたものを伝えているだけでしたから……(笑)。でも、不器用でできなかったからこそ、教えられるものがある、というのはあったかもしれません。

――在団中のお二人のエピソードはまだまだありますか?

寿 おもしろエピソードは結構あります(笑)。

七海 今日一緒に撮影していて思い出したのですが、当時、すっしーさんがプログラムなどの撮影にもよく立ち会ってくれて。宙組時代にバウホールの『the WILD Meets the WILD』でダブル主演をさせていただいたことがあるのですが、そのポスターやパンフレットの撮影で、すごく悩んじゃったんです。当時はまだ全然撮られ慣れてないから、上手い表情が出せなくて……。

寿 撮影にはその組の幹部が立ち合うことになっていたんです。

七海 撮影がスムーズに進まなくて「どうしよう!」となっていたときにすっしーさんが「かいちゃん! いま感情を爆発させるんだ! 演じるんだ!」って。役としてカメラの前に立てば上手くできるんじゃないかと気付いてくれたんですよね。あと、「冷房、切ろうか」って(笑)。

寿 かいちゃんは暑いのが苦手だったんです。だから冷房を止めたら機嫌が悪くなって、いい表情が出せるかも、と思って……(笑)。

七海 そうそう。ちょっと怖い、荒くれ者みたいな役だったので、私の機嫌が悪くなるほうがいいだろうという、すっしーさんの判断でしたね。副組長と一緒に、めちゃめちゃ盛り上げてくれて、本当に良いものが撮れたんです。全員、大笑いしてましたけど(笑)。

寿 そういう瞬間は本当に楽しいです。偉そうですけど、皆が成長する、経験を積んで変化していく姿から私もたくさん学ばせてもらったんです。組長とはいえ、一人ではあれだけの人数をまとめることは絶対にできませんが、かいちゃんはいつもそこをサポートしてくれた存在のひとりでした。私が思いつかないこともかいちゃんの視点から的確なアドバイスを皆に伝えてくれたり……。表現することに関して、そこはとても助かっていました。

――視点が違う、というのが面白いですよね。

寿 はい。それが宝塚のいいところだと思いますね。感性や持ち味、得意分野がそれぞれ異なるので、皆で力を合わせると100、200、300…とどんどんパワーが積み重なっていくんです。素晴らしい、そして素敵な世界だったなと思います。

2023.08.22(火)
文=前田美保
写真=佐藤 亘