宝塚歌劇団のレジェンド的組長として、長く宙組を率いてきた寿つかささんと、退団後さらなる新境地を切り拓いていく七海ひろきさん。宙組時代をともにした二人の在団中のエピソードから、ともに出演する舞台『THE MONEY -薪巻満奇のソウサク-』についてまで、語り合います。
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寿つかさが早くから見抜いた、七海ひろきのスター性
――寿さんと七海さんは宙組時代にご一緒だったと思いますが、それぞれの印象について教えて頂けますか?
寿さん(以下敬称略) 入団してすぐの大劇場公演などではそこまで客観的に観てなかった気がしますが、将来が楽しみだなと思ったのは2005年の宙組バウホール公演『Le Petit Jardin(ル プティ ジャルダン)-幸せの庭-』のときです。舞台に立ってすごく変わるかいちゃん(七海さんの愛称)を見て、「おお! これは!」と(笑)。
七海さん(以下敬称略) 研3くらいでしたね。
寿 すごく光るものがありました。役にスッと入って、その人物として舞台に立つというのはとても難しいことなのですが、わずか入団3年目でそれが出来るのはすごいなと。みんなそこを目指して役作りをするわけなので……。
七海 ありがとうございます!!
寿 ルックスも素敵で、アイドル的でカッコいいし、イケメンだし。でも、それだけに留まらず、ちゃんと役を噛み砕いて、心で感じながら舞台に立っていたんです。まだ経験が浅いころから自分の芯がブレることなく役を作るというのは相当難しいことですからね。
――七海さんはそういう感覚を早い段階から持っていらした、ということなのですね。
寿 そうだと思います。新人公演の初主演のときもそうでした。初主演なんて緊張もするし、プレッシャーもあるし、時間もないわけですから、もう何から手を付けたらいいのか分からないのが通常なんです。でもそこでもかいちゃんはまったくブレませんでした。新しいスターが誕生した瞬間を見られて、とても嬉しかったのを覚えています。
七海 すごく見てくれていて、嬉しいです!
寿 スターなんだけど、ちゃんと“役で生きる”という職人的なところは失わなかったのがすごい。そこからすくすくと育っていき、一緒にお芝居をすることも増えていきました。細かく話し合わなくてもお芝居のキャッチボールができるというか、役と役でぶつかれる安心感というのが常にありましたね。本当に頼れるスターさんでした。
――下級生の七海さんを叱った! ということはありませんでしたか?
寿 個人的に叱ったことは……、あったかな?
七海 すっしーさん(寿さんの愛称)に叱られた記憶はないですね。手取り足取り教えてもらった記憶はめちゃめちゃいっぱいありますけど(笑)。
寿 怒ることは本当になかったです。全体的に「注意しましょう」とか「気を付けましょう」というのはあっても、個人的にはちゃんといい子でしたから(笑)。
――七海さんからご覧になった寿さんの印象を教えてください!
七海 本当に優しくて。私はとにかくできないことが多かったんです。特にダンスにおいては振りが覚えられなくて、研1、研2のときですが、親身になって教えてもらっていました。すっしーさんは早々にきっと「この子は器用な子ではない」とわかったんだと思います。すごく丁寧に、一つ一つを教えてくれて。
寿 遅くまで一緒に残ってお稽古していたね。
七海 はい(笑)。入った頃から面倒を見てもらいましたが、学年が上がっていくと覚えないといけない量が増えてくるので、また分からなくなったときに「教えてください!」ってすっしーさんに頼りました。夜までお稽古、しましたね。
寿 同じ場面を踊るメンバーでももちろん個人差があって、かいちゃんは振り覚えに関しては“丁寧に時間をかけてやる”というタイプ。私が教えるというよりは一緒に確認しながら、稽古場の電気が消えても一緒に踊っていましたね。できないと「できなーい!」って床に寝転がったりしてね(笑)。居残り練習チームは少人数でしたが、いつもそこにかいちゃんと私がいました。
2023.08.22(火)
文=前田美保
写真=佐藤 亘