キーヤン(Ki-Yan)の愛称で親しまれる壁画絵師、木村英輝。京都・青蓮院門跡の60面にも及ぶ襖絵に、広島カープ・マツダスタジアムの鯉の巨大壁画など、国内外で手がけた作品は250以上にも及びます。額縁におさめる絵ではなく、生きた絵を街に描くことを選んだキーヤン作品は“その場所”に行かないと見ることのできない壁画がほとんど。今展のようにギャラリーで大型の作品を展示するのは本邦初であり、稀少な機会となります。
会場に一歩足を踏み入れると、出迎えるのは金の光を浴びながら天を目指して泳ぐ無数の鯉のタペストリー。脇を歩くとタペストリーがゆらりと揺れ、ゆうゆうと泳ぐ鯉に囲まれているような気がしてきます。鯉や蓮、象、虎、孔雀など日本の伝統美術に用いられてきた定番モチーフも、キーヤンの手にかかると鮮烈なインパクトを与える作品に昇華。目の覚めるような鮮やかな色彩と躍動感あふれるダイナミックな構図で、見る者をプレイフルな世界に誘ってくれます。
本展では50点を超える新作のほか、初公開作品「蘇る蓮/Lotus Revives」にも注目を。この作品は40年来の旧友である女優・樹木希林の依頼により、希林宅の板戸に描いたもの。観修寺や天竜寺などの蓮池に、1年を通してスケッチに通ったというキーヤン。緑したたり花咲く季節も美しいが、枯れ葉や花茎がうち重なる凋落の時も「かっこいい」と話します。蜻蛉や蛙など蓮池に集まる小さな生き物、そして枯れ蓮の下の泥の中で育まれる次なる生命、輪廻する命の力強さをじわりと感じる幻想的な作品です。
大胆な構図、リズムを感じるデザイン性の高さなど、キーヤン作品は「現代の琳派」と称されることも多々あります。しかしながら、現代的なアクリル絵の具を画材に選ぶなど、正統派の日本画とは一線を画す手法を選択。「美術」という業界から積極的に距離を置き、固定概念を排除して独自の道を歩んできたキーヤンの作品には、「美術」への反骨精神、ロックの精神に通ずるものを感じます。会場で行われた公開制作では、二曲の屏風に収まらず壁へとあふれ出る象たちを描き、見学者はもちろんスタッフまでをもザワつかせる事態に。型にも額にもはまらない、キーヤンの精神に触れられるパフォーマンスに会場は沸き立ちました。
その時、その場所、ライブで生まれるロックなストリートアート。創作の舞台の主流を「壁」にしてきたキーヤンの、次なるフェーズを感じさせる初の展覧会。稀代の絵師が織り成す世界観をぜひお見逃しなく。
木村英輝 EXHIBITION
― 大人のストリートアート ―
会場 ポーラ ミュージアム アネックス
所在地 東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3F
電話番号 050-5541-8600(ハローダイヤル)
会期 2023年6月16日(金)~7月30日(日)※会期中無休
開館時間 11:00~19:00(入場は18:30まで)
入場料 無料
交通 銀座一丁目駅7番出口すぐ/銀座駅A9番出口より徒歩6分
POLA MUSEUM ANNEX
https://www.po-holdings.co.jp/m-annex/
木村英輝 EXHIBITION -大人のストリートアート-
https://ki-yan.com/workslist/45215
2023.07.15(土)
文=嶺月香里
写真=平松市聖