幼少時代からの親友との友情を描き、ベストセラーになったマンガ『岡崎に捧ぐ』の著者・山本さほさんの最新刊の主人公は自身の両親。マイペースでオタクな父と倹約家で超心配性な母。性格が真逆だけれどもずっと仲が良いふたりは、娘からみても「理想の夫婦」。
お父さんは怒ったことがない
──『てつおとよしえ』は、お母さんの「よしえ」を中心に描いたマンガだと思っていたのですが、読んでみると、お父さんの「てつお」の特殊さのほうにまず目を奪われてしまいました。だって、山本さんがお父さんのクレジットカードを使ってCDをバンバン買っても……。
山本 怒られませんでした(笑)。今では本当に悪い事をしたなと反省してます。
──これで怒られないんだ……と思って読んでいたら、今度はお父さんが経営する会社の経理に横領された話まで出てきて。
山本 横領してた人、父より報酬を多く貰ってたらしいです(笑)。「なんで気づかないの?」って思いますけど。お金に無頓着なのかもしれませんね。
──それでも怒らないって、なんて大らかな人なんだと思って。お父さんから怒られたことはほとんどない?
山本 怒られたことはほとんどないですね。元々「優しいな」とは思っていたんですけど、マンガを読んだ人から「お父さんすごいね!」とよく言われるから、「やっぱりうちのお父さんって、めちゃくちゃ優しいんだ」と改めて実感しました。
──それは山本さんが末っ子だから?
山本 いや、兄も姉も、怒られてるのは見たことないですね。 もしかすると優しいというより、子供たちに興味がないのかもしれないです。進路を聞いてきたこともないし……。
──「お父さんから怒られたことがない」という経験が、自分の成長に作用したという実感はあります?
山本 私は子供の頃からお調子者の悪ガキタイプだったんですけど、父から怒られなかったことは、今の性格にすごく作用していると思います。
──『岡崎に捧ぐ』にもいたずらのシーンは出てきますけど、山本さんにためらいがないんですよね。のびのびといたずらできる感じは、お父さんの怒らなさの影響もありそうな気がしました。
山本 今は大分落ち着きましたが、20代の頃は本当に子供っぽくて、よく人に怒られていました(笑)。すぐふざけちゃうんですよね。
──ニートの期間があって、「家庭内での地位が犬より低かった」というくだりがありますよね。その頃って、実際どんな空気だったんですか?
山本 働かずに、ネットゲームを1日十数時間やってたんですよ。ただ、当時はパソコンが居間にしかなくて。自分の部屋に引きこもれたら最高だったんですけど、居間でゲームをするしかないから、その横で親がご飯食べてたりしているという変な空間でした(笑)。
──娘が働かずにゲームに興じる姿を横目に。
山本 母はマンガにも描いた通り心配性だから、「あんた、こんな時間までゲームして! 将来どうすんの!」みたいなことをワーッと言ってくるんです。だからもう少し母の小言に耐える胆力があれば、無限に無職でいられたかもしれませんね(笑)。
──お父さんは、そのときも何も言わなかった?
山本 父は何も言わなかったですね。たまに朝方、「昨日ずいぶん遅くまでゲームの音がして、うるさかったな」と言ってくるくらいです。
2023.07.07(金)
文=前田隆弘