この半年のあいだに、堀北真希を主演に迎えた『麦子さんと』のほか、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』『銀の匙』と3本の新作映画が立て続けに公開される吉田恵輔監督。前回に続く2回目では、『麦子さんと』の撮影裏話のほか、吉田作品の魅力のヒントも語ってくれた。
構想7年、紆余曲折の末に完成した『麦子さんと』
――最新作となる『麦子さんと』ですが、企画を最初に聞いたときから、すでに7年近く経過しています。もともと『純喫茶磯辺』(2008年公開)の次回作として動いていた作品ですから、長い道のりだったと思います。
『純喫茶磯辺』の編集中には、すでに『麦子さんと』の脚本を書いていましたからね。08年の1月には第一稿が上がっていたので、二転三転しながらも、08年中にはクランクインする予定だったのですが、リーマンショックがあったりして、最終的には話を進めていた会社自体がなくなってしまった。だから、今年の1月に無事クランクインしたときは感無量でしたね。
――本作で堀北真希さん演じるヒロイン・麦子には吉田監督自身が投影されています。つまり、これまで迷惑をかけてきたお母さんへの感謝の気持ちを脚本に記したわけですが、そんないちばん作品を観てほしかったお母さんをクランクインの2週間前に亡くされました。正直しんどくなかったですか?
なんか、その泣きたい気持ちをどこかに置いてきているんですよ。今年の正月に、実家に帰省したときは元気だったので、その数日後に亡くなったと聞いても、どこかピンと来ない。それに、お通夜のときも、締め切り前の脚本を書いていたし、どこかで自分が傷つかないよう気持ちを遮断していました。たとえば、応募した自主映画が一次で落選した瞬間、落ち込む前に、次にどんな映画を撮ろうかと考えるみたいな。キツい現実を受け止めないため、前向きな“フリ”を長年してきたから、今回もそれができたんです。『麦子さんと』の撮影後も、ずっと忙しくて、集中力も切れてないこともあって、1年近く経った今も泣けないんです。
2013.12.21(土)
text:Hibiki Kurei
photographs:Mami Yamada