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劇場版コナンシリーズが苦しんでいた時期とは

 そもそも、劇場版コナンシリーズの成長曲線は“異常”といってもいい。これほどまで長期間続いているシリーズならば、基本的には「大体これくらいの興収」という枠の中に収まるもの。

 実際、第4作『瞳の中の暗殺者』(00)から第17作『絶海の探偵』までの興収は20~35億円あたりを推移していた。より細かく見ていくと、第13作『漆黒の追跡者』(09)から第17作『絶海の探偵』(13)までの期間は安定して30億円台をキープ。

 チケット料金の推移等も計算に入れるべきだろうが、少なくとも10年前の段階では「劇場版コナン=30億円クラスのヒットシリーズ」という認識があったはずだ。

 変化が訪れたのは、第18作『異次元の狙撃手』(14)。本作は興収41億円を突破し、「30億の壁」を打ち破った作品となった。シリーズ全体の流れから見ても本作は『黒鉄の魚影』にまで続く興味深い要素にあふれている。それは「原作とのリンク」「とにかくキャラを立たせる」「海外目線」「現実路線の設定×ド派手アクション」といったもの。

 ただこれらは『異次元の狙撃手』で急に始まったというわけではなく、一つひとつの積み重ねがあったうえで結果が出たという印象が強い。『異次元の狙撃手』について語る前に、そこに至るまでを振り返ってみよう。

 元々劇場版コナンシリーズは第2作『14番目の標的』(98)の毛利小五郎&妃英理夫妻、第3作『世紀末の魔術師』(99)の怪盗キッド、第4作『瞳の中の暗殺者』の蘭と高木&佐藤刑事ペア、第5作『天国へのカウントダウン』(01)の少年探偵団と灰原哀、第6作『ベイカー街の亡霊』(02)の工藤優作、第7作『迷宮の十字路』(03)の服部平次と遠山和葉といったように、フォーカスされるキャラクターが明確に決まっている。

 ただ、第8作『銀翼の奇術師』(04)以降は“2巡目”に入っていたという印象が拭えない。第10作『探偵たちの鎮魂歌』(06)はオールスターキャストのお祭り感で30億円を突破したが、第8作『銀翼の奇術師』、第9作『水平線上の陰謀』(05)、第11作『紺碧の棺』(07)、第12作『戦慄の楽譜』(08)は興収20億円前半と伸び悩みの時期になってしまった。

 その代わりミステリー要素を押し出していて、『水平線上の陰謀』は「シリーズ初の二重(デュアル)サスペンス」、『戦慄の楽譜』は「華麗なるサスペンス・オペラ」を謳っていた。しかし、新鮮味という意味ではやはり弱い。劇場版コナンシリーズは毎回「舞台設定」を重視していて、飛行機の中や豪華客船等々、試行錯誤は感じられるものの、シリーズの歴史全体を見ると苦しんでいた時期といえるだろう。

2023.07.05(水)
文=SYO