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爆発シーンの凄まじいクオリティの進化

 また、映像表現の進化も目覚ましく、劇場版コナンシリーズの風物詩である爆発シーン一つとってもクオリティがどんどん上がっている。例えば『ゼロの執行人』のクライマックス、コナンが爆風の中でボールを蹴るお約束の「いっけぇぇぇ」シーンでは、爆炎に爆風、空中を舞う瓦礫にプラスしてボールを蹴りだす際――つまりインパクトの瞬間のエフェクトの描き込みが凄まじい(カーアクションの迫力にも目を見張る)。

 『ハロウィンの花嫁』では、ドローンを使ったような渋谷の空撮から地表まで一気に急降下するショットが用意されているし、『緋色の弾丸』は始まった瞬間、画面に「DETROIT:15 YEARS AGO」のテロップが映し出され、洋画テイストで意表を突いてくる。『黒鉄の魚影』では、コナンが海を見つめるシーンでカメラが高速で移動し、タイトルロゴが登場するという粋な演出が施されている。こうした映画そのものの完成度の高さと、ファン目線でみたときの満足度の高さの二本柱が、劇場版コナンシリーズを別格の存在へと押し上げたキーといえるだろう。

 25年以上をかけて積み上げてきた「伝統」と、変化を恐れない「革新」。そうした歴史の最先端にあるのが、『黒鉄の魚影』だ。本作では満を持して遂に「灰原哀」をメインに据え、黒ずくめの組織との衝突を描いている。灰原が劇場版に初登場したのは第3作『世紀末の魔術師』のため、制作陣にとっては20年以上温めた/我々ファンにとっては20年以上待ち続けた企画といえるかもしれない。

 先ほど述べた「新規ファンがついてこられない」問題も、灰原という古参キャラを中心に据えることで多少は緩和されたのではないか。なお、劇場版コナンシリーズもビギナーを置いてけぼりにしているわけではなく、『緋色の弾丸』公開時には特別総集編『緋色の不在証明』、『黒鉄の魚影』公開時には特別総集編『灰原哀物語~黒鉄のミステリートレイン~』を制作し、バックアップを行っている。

 続く後篇では、『黒鉄の魚影』にフォーカスを当て、100億円突破の“必然性”を内容面からがっつりと分析していきたい。(※『黒鉄の魚影』のネタバレがふんだんに飛び出します。お気をつけて&ご容赦ください)

後篇を見る

SYO

映画ライター・編集者。映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人以上。CINEMORE、装苑、映画.com、Real Sound、BRUTUSなどに寄稿。Twitter:@syocinema

次の話を読むあなたはいくつ気が付きましたか? 劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影』に 隠された灰原哀のセルフオマージュ

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2023.07.05(水)
文=SYO