この記事の連載
- 『名探偵コナン』前篇
- 『名探偵コナン』後篇
劇場版コナンシリーズならではの“ある特徴”
この点で興味深いのは、劇場版コナンシリーズのキャラの立たせ方が“関係性”へとシフトしてきたことだ。平次と和葉、赤井と安室、京極真と鈴木園子(『紺青の拳』)、高木と佐藤(『ハロウィンの花嫁』)、赤井ファミリー(『緋色の弾丸』)といったように、一人だけにフォーカスを当てるのではなく、しかも対コナンに限定する形でもない。
「カップリング」や「箱推し」という言葉があるように、“関係性”はファン心理をくすぐる重要なファクターだが、劇場版コナンシリーズはこの点においても「お手本」といえるほどに心配りが細やかで、ファンの心を完全に掌握している感さえある。
『ハロウィンの花嫁』は安室の警察学校時代の同期生たちとの過去と現在が交錯する物語だが、原作の空白期間にきちんとハメ込んで整合性を保ちつつ、映画版独自の見ごたえある活劇も入れ込んで……といった離れ業を楽しめる(脚本担当は青山の推薦によって抜擢されたという大倉崇裕)。
ただ、こうした「完全にファンの方を向いた」作品作りは、考えようによっては勇気が必要なもの。ガチ度が増すほど、新規層やビギナーを置いていくことになりかねないからだ。劇場版コナンシリーズは毎作品「『名探偵コナン』はどういう物語か」というチュートリアルが入るものの、シリーズが続くにつれ登場人物も増え、コナンと黒ずくめの組織の戦いに公安警察、FBI、CIA、MI6等が絡み、複雑に入り組むように。黒ずくめの組織についても、ジンとウォッカのふたりだけ覚えておけばよかったのが、ベルモットにラムに……しかもベルモットの行動理念を知るためには過去作を追いかけていないと……と前提知識が大量に必要になってきた。
コナンと同様に長年続いているアニメ映画シリーズの『クレヨンしんちゃん』や『ドラえもん』などは予備知識がなくても物語を理解できるような作りになっているが、劇場版コナンシリーズに限ってはむしろガチファンの方へと突き進む傾向にある。そうした「ターゲットを絞る」戦い方を選択しながらも、右肩上がりの成長を続けているのは本シリーズぐらいといえるのではないか。
ちなみに劇場版コナンシリーズならではの特徴としては、「来場者プレゼントを行わない」ことも挙げられる。レアな来場者プレゼントを用意したり、毎週プレゼントを変えたりといった付加価値をつけることでリピーターを増やすのは特にアニメ映画の常套パターン(近年では『劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室』『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』等の実写映画でも行い始めた)なのだが、そうしたブーストを行わずともリピーターが次々と生まれており、これだけのヒットを記録できているという点も、劇場版コナンシリーズの特徴として記しておきたい。
2023.07.05(水)
文=SYO