世界中を暮らすように旅してきたので今回の出産もその旅のひとつ

コムアイさんは、ペルーのアマゾンに暮らすワンピス族の村で出産をする。彼女がその決断を明らかにすると、ネットでは安全性や部族社会への配慮の有無などの論が交わされた。

 ワンピス族の村にお世話になることにしたのは、彼が研究で半年間滞在していて、村のリーダー格の人と信頼関係があるから。私はそれに甘える形です。出産の相談をしたら「もちろんできるよ」と快諾してくれ、パルテーラという産婆さんを紹介してくれました。

 いただく指摘の多くは「アマゾン」という言葉が先行していますが、みんなどんな未開の地を想像しているんだろう。現地の人とはビデオ通話しているし、ネットや電気が通っている場所もあります。私は私で様々な出産方法を調べて、自分が得た情報から「こっちを選ぶ」というだけ。多くの人が心配してくれるのは本当に有難いけれど、今の時点でみんなに納得してもらう必要は感じません。

コムアイさんの妊娠から出産までは太田さんによりドキュメンタリー映画『La Vie Cinématique 映画的人生』として撮影される。母としてのこれからを、彼女はどう見据えるのか。

 妊娠してから「生きる」とはどういうことかいつも考えています。私はやりたいと思ったことは絶対にやりたいし、物事は楽しんだり面白がらないと自分で自分を苦しめてしまいかねない。それは子育ても同じじゃないかな。自己犠牲の精神で接するのは子どもに対して失礼だと私は思うし、親が人生を楽しむ姿を見て育ってほしい。あとは子どもの人生を決めつけないようにしたいですね。エコーでお腹の子の心臓がピコピコ点滅しているのを見たときに、私の体と繋がっていても全く別の命だと強く感じたから。

 彼も私も世界中を暮らすように旅してきたので、今回の出産もその旅のひとつ。いまは私が胎児に宿を貸している状態だけど、生まれたらこの子には己の心の向くまま自由に生きてほしいな。

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コムアイ

1992年神奈川県生まれ。2012年ケンモチヒデフミ、Dir.Fと水曜日のカンパネラを結成し16年メジャーデビュー。21年に脱退した後はアーティストとして国内外で活動中。

『La Vie Cinématique 映画的人生』

越境する表現者、コムアイの第一子出産の道のりを、胎児の父である太田光海監督が間近で追いかけるアートドキュメンタリー。妊娠中も続くコムアイの多面的活動がこの世界に引いていく新たな線をなぞり、リミナルな「胎児の視点」を想像する。2024年完成予定。

2023.06.08(木)
Photographs=Yoina Sawano
Hair styling=Yuko Aoi
Associate editor=Kyoko Akayama

CREA 2023年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

母って何?

CREA 2023年夏号

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定価950円

CREAで10年ぶりの「母」特集。女性たちにとって「母になる」ことがもはや当たり前の選択肢ではなくなった日本の社会状況。政府が少子化対策を謳う一方で、なぜ出生数は減る一方なのか? この10年間で女性たちの意識、社会はどう変わったのか? 「母」となった女性、「母」とならなかった女性がいま考えることは? 徹底的に「母」について考えた一冊です。イモトアヤコさん、コムアイさん、pecoさんなど話題の方たちも登場。