この記事の連載
- 今井登茂子さんインタビュー
- 『さりげなく品と気づかいが伝わる ちょい足しことば帳』より
おすすめのちょい足しことば
──社会人として「これだけは」というおすすめのちょい足しことばがあれば教えてください。
今井 会話の内容や相手にもよるので一概には言えませんが、私がよく使っているのは「おことばに甘えて」というちょい足しことばです。気づかってくれる相手の申し出を感謝の気持ちとともに伝えられる、すてきなことばだと思います。新人時代、先輩と食事に行ったとき、ご馳走すると言われて遠慮していたら、別の先輩が「おことばに甘えてご馳走になります。ありがとうございました」と答えたんです。それを聞いて、かっこいいなと思ってまねするようになりました。
会社でも、自分の仕事はもう終わったけれど、まわりがまだ残っているときってありますよね。そんなとき、「ここはもういいから帰りなさい」という声かけに、「では今日は、おことばに甘えてお先に失礼します」と答えられたら、相手もすっきりと気持ちがいいと思います。何かを譲ってもらったときや、自分がすべき負担を相手がしてくれたときなど、さまざまな場面で使えて便利な表現なので、覚えておくとよいと思います。
──ちょい足しことばは、メールや文書でも使えそうです。文章のちょい足しは難しいでしょうか。
今井 文章は形に残るので難しいと思いがちですが、自分が納得するまで何度でも添削できるので、そのときのベストなことばを残すことができると思います。
逆に難しいのは「とっさ」の会話です。無意識に心の中を見せてしまうとっさの場面で、思わず出てくる会話にちょい足しことばを使えるようになると、コミュニケーションの品位がグンとあがります。
──「〜でございます」「存じませんでした」などのことばを使うのが「品位」だと思っていました。
今井 それは順番が逆ですね。私はいつも、「ことばづかいはこころづかい」と言っています。ことばづかいは、人間力をあげることで自然と整っていくものです。「品格をあげよう」としてことばを使っても見抜かれてしまいますよ。
──難しいですね。ますます使いこなせるか不安です。
今井 大丈夫。すべてを言い換えるのは大変ですが、ちょい足しことばは、普段使っている表現に少し足すだけですから、誰にでもできますよ。まずは自分の中にあるこころづかいをひとことプラスして目の前の相手に届けてみてください。
相手を思いやる会話に上手下手はありません。思いやりがこもったひとことは、相手の話を引き出すだけでなく、会話に自信がつき、その人らしい品位を磨く武器になると思います。ちょい足しことばは、お互いの心を開き、相手との距離を縮めてくれる豊かなコミュニケーションの出発点でもありますから、ぜひ今日から使ってみてくださいね。
さりげなく品と気づかいが伝わる ちょい足しことば帳
定価 1,650円(税込)
朝日新聞出版
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今井 登茂子(いまい・ともこ)
東京生まれ。立教大学文学部卒業後、TBSテレビに入社。アナウンサーとして音楽番組から報道、スポーツ番組と第一線で活躍。初代お天気お姉さんとして視聴率40%を記録、お天気情報を番組として定着させる。また、TBSラジオの看板番組『キユーピー・バックグラウンド・ミュージック』を27年間担当してきた功績などから、1988年、放送貢献者に贈られる「ゴールデンマイク」賞を受賞。退社後「ことばによる自己表現」の重要性を広めることを目指し、人材教育を行う株式会社TJコミュニケーションズ「とも子塾」を設立、伊藤忠テクノソリューションズ、資生堂、東芝、丸井、ミキモト、モスフードサービス、ワコール、オール日本スーパーマーケット協会、全国地方銀行協会、日本女子プロゴルフ協会、日本秘書協会など日本を代表する企業や団体の人材育成に携わる。新聞・雑誌でコラムやエッセイを執筆するほか、『できる大人が使っている 社会人用語ハンドブック』(サンマーク出版)、『誰とでもラクに話せるコツ101――しんどいシーンをすべて解決!』(高橋書店)など著書多数。ライフワークとして音楽朗読の表現活動に力を注ぎ一貫して「ことば」の世界に生きる。
2023.05.18(木)
文=相澤洋美
撮影=釜谷洋史