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竹中監督の演じるちふゆがかわいらしかったです(笑)

――竹中監督とは、どのようなお話をされたのですか?

 お話はそれほどしていないのですが、竹中監督は原作に対して深いリスペクトと「映画化したい」という思いが溢れていらっしゃいました。この作品に描かれている「表現者の苦悩」にすごく共感なさっていて、その点は私もよくわかることばかりだったので、ぜひ参加させていただきたいと思いました。

 現場での竹中監督は、判断がものすごく速くて、「深澤とちふゆの醸し出す空気感がOKならいい」という感じで、基本的に自由にやらせてくださいました。スタッフのみなさんもプロフェッショナルで、全くストレスなく演じることができましたね。

――それは理想的ですね。

 たまにその場でセリフが追加になることがあったんです。すると、監督が実際にちふゆを演じてみせてくださった。役者さんでもいらっしゃるから、竹中さんのかわいらしいちふゆを見ることができて嬉しかったです(笑)。

 「手を胸の上のほうに置いてみて」など、監督のおっしゃる通りにしてみると、ささいな動きでも彼女の心の内を表現できました。さすだがなと思いました。

――俳優でいらっしゃるからこその的確な演出ですね!

 竹中さんは「ちふゆが語るエピソードも、嘘か本当かわからないから」とおっしゃっていました。そういう解釈もできるのかとハッとしました。周囲とフィットしない、もどかしい現実があるから、ちふゆも逃げ出したい気持ちがある。だから、深澤に惹かれていく……というような細かいディティールをいったん作り上げて、体に通してから、現場ではそれを一度忘れます。細かく詰め込みすぎないように意識しました。

 ホテルの場面は、セットや照明など、スタッフの方々がすごく素敵に場を作ってくださったので、ちふゆはその空間の一部でいるような。感覚的な印象が強いキャラクターだったように思いますね。

2023.03.13(月)
文=黒瀬朋子
写真=松本輝一
ヘアメイク=カワムラノゾミ
スタイリスト=中井綾子(crépe)