兄と私との連携で全体の資産内容を把握したと思った後でも、実際にはまだ別の資産の発見がありました。また不動産の一部で権利証が見つからないなどの騒動までありました。

 私たちの親は幸い、同じ県内に在住していたことから家内捜索は比較的順調だったことでなんとか全容を把握できましたが、これが地方であればどんなに大変だったかと思わされます。

 これは一次相続の話ですが、それでもこの大変さでした。もっと大変なのが、親から子への二次相続です。

 相続税がかかる、かからないに関係なく、親の資産は相続されます。資産の内容を親が亡くなる前になるべく把握しておくことが重要です。しかし、現実には親の財産がどのくらいあるか詮索するのはなにやら親に早く死ね、と言っているような誤解を与えかねない、また親と良い関係が築けていない、など多くの理由で子供が知る機会がなかなかありません。また親のほうも、財産内容を子供に教えてしまうと、子供が働かなくなる、人生を甘く考えてしまう、などの親心も災いして隠したがるところもあります。

 少なくとも被相続人である親の側が、自分が亡くなった後に相続する配偶者や子供たちが困ることのないよう、財産目録程度のものは残しておかないと、あとに残される相続人たちがいかに苦労するか思い知ったのが、父親の亡くなった我が家の一次相続でした。

 はじめにお伝えしておきますが、本書はいわゆる「相続税対策本」ではありません。読んでいただきたい対象は、相続税など心配しなくてもよい方も含め、必ず相続を経験するはずのすべての方々です。ほとんどの人が必ず遭遇する親からの相続のうち、否応なしに一定の負担を強いられることになる「どうしようもない不動産」「取り扱い注意の不動産」に多くの人たちが悩まされていく未来、新・相続問題について語ります。団塊世代が後期高齢者の仲間入りを始めるこれからの日本社会では相続が多発します。そして多くの相続人が親の残した不動産で苦しむ「相続難民」の時代が到来しようとしています。

 相続が起こってしまった後に悩みたくない方、相続後の不動産の取り扱いに悩んでいる方は、ぜひ本書でご一緒に相続の真実と日本社会の未来を考えてみましょう。


「まえがき」より

2023.03.08(水)
文=牧野 知弘