ねこまき(ミューズワーク)『ねことじいちゃん』 

 風光明媚な島が舞台。タイトル通り、ねこ=タマ10歳、じいちゃん=大吉75歳(2巻では76歳に。以降、年齢不詳)、ふたりの日々の暮らしを追う、ほっこりする猫マンガだ。

 南向きの縁側から海を見下ろせる、少し高台にある木造二階建てで暮らす大吉は、いなりずし、雀ずし、鯛めし、ぜんざい等々、四季折々の自然や食べものを仲間や息子と味わい、タマとともに平穏でのどかな晩年を楽しんでいる。

 八千草薫似の妻よしえがすでに故人であるなど、島には老境に入っている住民が多い。老、病、死の哀しい場面も描かれるのだが、それ以上に心温まる「生の輝き」にじんとする。パステルカラーの色合いと、シンプルな線で描かれるキャラデザインも魅力的。

 人間の視点で語られるエピソードが中心だが、ところどころに挟まれている猫視点がいい味出してる。

ねことじいちゃん (メディアファクトリーのコミックエッセイ)

定価 1,100円(税込)
KADOKAWA/メディアファクトリー
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松本大洋『ルーヴルの猫』

 幻想的で物語性あふれる無二の味わいで感動を誘うのが本書。生き延びるために人間の目を避け、ルーヴル美術館の屋根裏に隠れ住む猫たちにとって、月夜に敷地内を散歩するのはささやかな自由だ。

 そうした猫社会の暗黙のルールを守らない白猫〈ゆきねこ〉は、館内を昼間に歩き回り、美術館のベテランガイド・セシルに見つかってしまう。

 彼女の同僚で、ルーヴル内を遊び場にして成長した老人マルセルは、猫たちの存在を知っていた。

 彼はある日、セシルに、幼いころに消えてしまった姉アリエッタの話を打ち明ける。

 〈絵入り〉という絵の中に入り込むことができたアリエッタ同様、〈ゆきねこ〉にもその特殊な能力が備わっていて……。猫コミュニティの優しさと厳しさ、人間との関わりを描く、生き物賛歌。静かな感動を誘う猫まんが。

ルーヴルの猫 (上) (ビッグコミックススペシャル)

定価 1,426円(税込)
小学館
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2023.02.25(土)
文=三浦天紗子