100年前の製法なのに100年使える、開化堂の茶筒

 1875年の創業時から同じ手法で茶筒を作り続けている京都の老舗、開化堂。しかし、100年以上変わらない製法を守り続けた陰には、様々な困難がありました。第二次世界大戦中は、金属類回収令から免れるために道具を土に埋めて守り、大量生産の時代になってからは卸売りから小売りへと業態を変え、柔軟に時代に対応することで今に繋げてきた伝統の茶筒。

「10年程前、結婚のお祝いにいただいたものです。使っていくうちに色が変化して、人生と共に育つ品。茶さじに新姓を刻印してくだったお心遣いに感動しました。凄く素敵なプレゼントをいただいたと思って、大事にしています」

 茶筒に現れる経年変化は、「その人の日々の暮らしを映し出す鏡のようなもの」と考える開化堂の品は、日々の暮らしを積み重ねていく結婚のお祝いにぴったりかもしれません。プレゼントを贈ることを全力で楽しむ山本さんには、同じくらい想いのこもったプレゼントが届くのでしょう。

 山本さんの基本姿勢は、「使ってなんぼ」。ちゃんと使うことが信条です。大きなラグが愛犬に噛まれてしまったら届かないように壁に飾ったり、お気に入りのケーキスタンドは飾り棚として活躍させたり。

「仕事で書籍をつくるときも、ものとの出会いも、キュンときたかどうかを大切にしています。キュンときて、その先を想像してワクワクできるか。ものならば、どんな風に使おうか考えるのが楽しい。今はまだ違うなというときは、潔く寝かせます。例えば5年前のものが、ふいに今だと思えるタイミングがあるから。タイミングも含めて、ものや人との関係を育てていくのが好き。何かを組み合わせたり、誰かと誰かを繋げたりするのが好きなんです」

 人間関係を育むように、ものとの付き合いも育む山本さん。だからこそ、山本さんの興味や好奇心、愛情によって選ばれたものたちは、喧嘩することなく一本の経糸(たていと)に繋がる緯糸(よこいと)のように、調和しているのだと納得しました。

●教えてくれたのは……山本有紀さん

編集者。itoto inc. 代表。自身が編集した書籍「高山都の美食姿」シリーズでは、関連するこだわり雑貨の展示販売イベントを主催。また、別の著者のYouTubeに出演するなど、企画から執筆、編集、イベント運営まで、出版まわりで幅広く活動中。Instagram @noconocoyuki

松山あれい

プランナー&ライター。日用品、マンガ、ファッション、ドライブ情報など、ジャンルを問わず読者の暮らしに役立つ記事を届けることが喜び。韓国コスメが好き。

Column

達人が惚れ込む
暮らしのMY BEST

暮らし上手な方々が日頃愛用している道具や家具をじっくりと拝見! 選ばれたものたちが、快適な暮らしにどう役立っているのか、その魅力をひもときます。もの選びの参考にぜひ!

 

2023.01.29(日)
文=松山あれい
撮影=平松市聖