暮らしの達人が日頃愛用している道具や家具をじっくりと拝見する連載「暮らしのMY BEST」。

 ご登場いただいた方の目を通して選ばれたものたちは、どんな風に心地いい暮らしを形作っているのでしょうか。その魅力をひもときます。あなたのMY BESTが見つかりますように。


魂を感じるものに惹かれる

◆CASE09 ジゼル・ゴーさん、フィリップ・テリアンさん (「DAMDAM」創業者)

 今回伺ったのは、柔らかい潮風を感じる三浦半島の高台にあるお宅。日本発のクリーンスキンケアブランド、DAMDAMの共同創業者であるジゼル・ゴーさんとフィリップ・テリアンさんのセカンドハウスです。

 公私ともにパートナーであるふたりが東京の自宅と、ここ神奈川の別邸で二拠点生活をスタートさせたのは2021年。山奥まで出かけてセカンドハウスを探していたものの、良い物件に巡り合えず、諦めかけていたときに出合ったのが海を望むこちらの家だったそう。広々とした庭では、畑作業が進められている様子。玄関を入ると、使い込まれた麦わら帽子がバスケットに収められていました。

 「こちらの母屋は築70年以上。長い間誰も住んでいなかったので、初めて来たときは背丈より高い草に覆われていました。でも、探していたのはここだ、とピンと来たんです。戦後間もない時期にアメリカ人の写真家が建てた家だと聞いていますが、日本家屋でありながらミッドセンチュリーの雰囲気も持っています」

 目を細めて話すフィリップさんから、家に対する愛情が伝わってきました。

 魂を感じるものに惹かれるというジゼルさんは、こちらの建物はもちろんのこと、室内に残されていた灯りや籠からもインスピレーションを受けたといいます。そこで、リノベーションの際は、壁や天井、障子など、元々の建物の活かせる部分はすべて活かし、修復や交換が必要な箇所にだけ手を加えました。また、使える小物は取っておき、今も大切に使い続けているそう。

 木製の柱や天井に大きな籠。一時は、もうこのまま忘れ去られて朽ちていくしかないと思われたものたちが息を吹き返し、ジゼルさんが選んだファブリックやバスケットと一緒に心地いい空間を作り出しています。

 元の古民家をひたすら忠実に復元するわけではなく、全く新しいものにするわけでもない。ふたりがこの家に施したのは、パッチワークのような、70年の時を超えた編集作業でした。古いものと新しいものを繋いで今この場所に合った価値を与えること、まさにこの家はふたりの手で甦ったのだと実感します。

 室内をぐるりと見まわしたところ、プラスチック製品がほとんどないことに気付きました。キッチンに並ぶ瓶もプラスチックではなく、すべてガラス瓶。中には乾物が入っているようです。

「近所でよもぎなどの野草を摘んできて乾燥させているんです。お茶にして飲んだり、ジューサーにかけて青汁のようにしたり。この辺りでは高菜が安く売られているので、100円くらいで大量に買ってきて、漬物にすることもあります」

 なんとも健康的なデュアルライフ。では、そんなふたりの生活を支える品々を見せてもらいましょう。

2023.03.30(木)
文=松山あれい
撮影=平松市聖