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 放送開始とともに視聴者を釘付けにし続ける「エルピス —希望、あるいは災い—」。ドラマとともに話題になっているのが、恵那(長澤まさみ)が料理をつくるエンディング映像です。このエンディング制作企画で参加しているのが、元テレビ東京社員で現在フリーのテレビプロデューサーとなった上出遼平さん。どういう経緯で今回のオファーを受けることになったのか、そしてテレビや報道に対してどんな思いを抱いているか。脚本家の渡辺あやさんとともにお話を伺います。(インタビュー【後篇】を読む)


「僕たちテレビは自ら死んでいくのか」に込めた思い

――「エルピス」のエンディング企画で上出遼平さんのお名前を発見したとき、いろいろと腑に落ちました。というのも、以前渡辺あやさんと佐野亜裕美さん(本作プロデューサー)がおっしゃっていた「テレビやマスコミ、報道の役割とは何か」という疑問を、上出さん自身もお持ちだからです。上出さんがテレビ東京在籍時に「群像」(2021年4月号)に寄稿された「僕たちテレビは自ら死んでいくのか」にはとても衝撃を受けたのですが、そのお話から伺えますか?

上出 なるほど、すいません僕の話からで。「群像」の件はお話できないことも多いのですが、可能な限りで。僕は当時、実名でテレビ局の体制や社長の判断に疑問を投げかける文章を書きました。それは僕が暴走族の少年たちを取材した企画がいろいろとたらい回しにされた挙げ句、社長直々にやめてくれと言われ、お蔵入りになってしまったことに由来します。テレビ局として社長が出てきて、暴走族を取材するな、反社会的勢力につながりのある人間だろ、というわけです。

――市井の人間を何らかの属性にあることを理由に取材対象から除外するという態度は、報道機関としては問題があるように感じます。

上出 社会から疎外された存在や、一般的な観念では耳を傾けるべきではないと思われるような存在の声こそ拾い上げるのがメディアの役割だと僕は思っています。この件に関しては暴走族を美化したものでもなく、もちろん金銭の授与などもなく、倫理的にも問題ない番組になっていたのですが、その是非を議論することさえ僕はさせてもらえなかった。僕と社長の間に何人もの階層があって、伝聞で1個の議題について投げかけたら2ヶ月後にやっと回答がくるという世界でした。しかもその解答は「ダメとのこと」みたいなレベルにまで簡素化されていて、誰がどの段階でどういう理路でその結論を出したのか全くわからない。それはいかがなものかという思いを書きました。

――当時は局員ですから、本来は発表する文章に対してもテレビ局のチェックが入りますよね。あえて会社を通さずに掲載に踏み切ったことで、これは「告発文」だと捉えられていた印象があります。しかし、読めば読むほどテレビに対する、ラブレターのように思えてなりませんでした。この原稿にはテレビや報道のあるべき姿を願う上出さんの希望やテレビマンとしての誇り、テレビへの愛情が詰まっていたので。

上出 それはおっしゃる通りで、僕は自分の居場所をどうにか守りたかった。だからこそ、もっとこうなってほしいという願いを書き連ねました。それ故に佐野さんや渡辺さんが思ってらっしゃることも、そういう意味ではすごい近いだろうなと感じていました。

「気合でやります」と引き受けたエンディング

――最初に「エルピス」のエンディング依頼を受けた時の思いをお聞きしたいです。

上出 嬉しかったですね、佐野さんから台本をいただいた後、面白くてすぐに感想を送りました。妻のことも重ねて読んでしまって。

――上出さんのパートナーである大橋未歩さんは、元テレビ東京のアナウンサーでしたね。

上出 僕の妻もテレビ東京で報道やバラエティなど色々経験して、現在はフリーアナウンサーをしています。今に至るまでにあった苦悩や葛藤などは完全に恵那と重ね合わせられるので、ちょっと特殊な見方でもあったと思います。もちろん、テレビ局内のどうにもならない問題やそこにいる人々の葛藤もありありと表現されていて、そこも僕には重なりました。きっとみなさんも同じだと思います。

 本作はテレビ局という場所に限った話ではなく、もっと普遍的な、組織と人間と正義の問題が容赦なく描かれていましたから。そのエンディングのご依頼をいただいたので、それは気合を入れてやります、と。

――劇中では恵那と拓朗(眞栄田郷敦)が必死につくったVTRが局の判断で放送不適切となりました。これは上出さんの実体験とも通じてしまいますが、テレビ局だけでなく、いろんな会社や組織でそういうことは起きているのだと思います。

上出 誰もが責任を取りたくないから、責任の所在を曖昧にするために上に上げていくということを繰り返した結果、誰の意思決定なのかもはや誰もわからない状態になって、結局何もできなくなる。渡辺さんは「ワンダーウォール」(NHK・2018年放送)「今ここにある危機とぼくの好感度について」(NHK・2021年放送)でも、大学という組織を舞台にそのことを描いていますよね。

渡辺 大学という舞台は、ある種メタファーみたいなものでした。実際は大学に限らず、政権をはじめとしたあらゆる組織で起きていることだと思います。

2022.12.20(火)
文=綿貫大介
写真=佐藤 亘