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視聴者の「答えが欲しい欲求」にどう抗うか

――今はわかりやすくない番組が成立していないというのはテレビを見ていても感じます。みんなわかりたい欲求が強く、わからない状態に耐えられない。それはエンタメにおける考察ブームにもつながっている気がします。

上出 答えを出してくれよという欲求に対してどう抗うかが、僕の最大の課題です。視聴者というお客さんの欲望が「答えをくれ」であり、それに対してテレビはずっと答えを与え続けたわけじゃないですか。「こいつは悪いやつです」「この人は不倫しました」と。善悪の線を引き続けたことによって、いろんな人の寛容度がなくなっていったと思っています。ヘイトの片棒をテレビが担ってきたわけですよ。それが嫌で、僕は食事を通して人の生活や考えを映すグルメ番組(皮を被ったドキュメンタリー)「ハイパー ハードボイルド グルメリポート」(テレビ東京・2017年~放送 以下「ハイパー」)を始めました。

――「ハイパー」は余計な説明やナレーションもなく、番組側の解釈もありませんでした。そこにはわかりやすさのプライオリティが高くなってきているテレビに対する上出さんの抵抗が感じられます。

上出 この番組には人を殺した人などがわんさか出てきますが、誰も当人のことを悪人だとは言わない。だけどそれではやはり「この人は(善/悪)どっちなの」という風に視聴者から問われてしまうんですよね。たとえば社会的弱者を扱うときも、他の番組ではたいていわかりやすく「かわいそうな人」という立て付けで放送するんですよ。そしてそのほうがやはり視聴率はいいわけです。でも、それをやらずに堪えるということに僕は力を割いてきました。

善悪の両面がある登場人物は視聴者に受け入れられづらい

――渡辺さんの場合、ドラマの登場人物のキャラクターづくりで意識していることはありますか?

渡辺 ドキュメンタリーの場合は、例えばある人の犯した罪を本当に断罪できるのかどうかは実在の情報量を持って伝えられるところがあると思います。しかしフィクションはどうしても記号なので、私の場合は自分の実感を具現化するしかないんですよね。そういう意味では自分がどう社会や人間を見ているかということが、如実に出てしまうんだろうと思います。

 すべての物事を一義化して善だとか悪だとか言い切ってしまう、そのような物語を大勢の人に見せるって結構怖いことだと思うんですが、とはいえ人間の多面性をそのまま見せようとすると、怒られがちなんです。あの登場人物はいい人なのか、悪い人なのか、このシーンではいいことを言ってたのに、ここではこんな態度を取るじゃないかみたいな。私が思ったままの人間の重層性や多面性を投影したときに、統一感がないという指摘を受けるということが多々あるんですよね。

――全方位で正しくないと許されないみたいなところはありますね。

渡辺 正しい人なら正しいことだけやっていてほしい。それはわかりやすさを求めることにもつながっていると思います。ただ、あまりにも整理整頓してしまうと、自分が表現したいことは描ききれないと思っているんです。

上出 ドキュメンタリーであれば、「この人は悲しい人だ」と見せたいときに、悲しくない瞬間を全部切るというのが方法論であります。そういう意味では、ベテランドキュメンタリストからしたら、僕らみたいな見せ方は許せないと思いますよ。ゴミ山で暮らしてる青年が嬉しそうに何かをしていたら、そこは切ったほうがいいでしょとやはり言われます。それは悲しくないじゃんって。プラス悲しい音楽をかけて、悲しさを増し増しに演出しましょうというのが論法なので。

――その点、上出さんは嬉しいシーンもあえて残していますよね。

上出 それがないと、単純に作品としても面白くないですよね。陰と陽はちゃんと混在してないと、どちらも引き立たない。どっちもあるよねということをどれだけ含められるかが、僕のやりたいことの根幹にあると思います。

» インタビュー【後篇】に続く

渡辺あや(わたなべ・あや)

2003年、映画『ジョゼと虎と魚たち』で脚本家デビュー。連続テレビ小説「カーネーション」が話題に。脚本を担当した作品は、映画『メゾン・ド・ヒミコ』『天然コケッコー』『ノーボーイズ,ノークライ』、テレビドラマ「火の魚」「その街のこども」「ロング・グッドバイ」など多数。民放ドラマの脚本を担当するのは、今作が初となる。


上出遼平(かみで・りょうへい)

1989年東京都生まれ。2011年にテレビ東京に入社。現在はフリーのテレビプロデューサーとして活躍。17年より「ハイパーハードボイルドグルメリポート」を制作。著書に番組の全容を綴った『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(朝日新聞出版)がある。

カンテレ・フジテレビ系ドラマ
「エルピス—希望、あるいは災い—」

カンテレ・フジテレビ系 毎週月曜日22時放送

出演者:長澤まさみ、眞栄田郷敦、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁ほか

次の話を読む視聴者に無理やり答えを 与えるテレビは宗教に近い? 「エルピス」のエンディングに迫る

2022.12.20(火)
文=綿貫大介
写真=佐藤 亘