自分の負の部分も役に昇華していく

――物語内で、中川さんは鳴尾 定/桜木輝彦という人物を演じます。不遇な宿命を背負った定が美容整形で輝彦という名を得て、鳴尾一族に復讐していく……ある種ダークヒーローのような役ですが、自分との距離感などは今どう感じていますか?

 時代背景も含めて、なかなか自分が経験しえない状況を生き抜いてきた男だと思っています。なので、距離感としては……今はまだある状態ですね。

 いつも台本を最初に読んだときは、どんな役でも他人事なんですよね。「こんな気持ちなのかな」と想像することはできても、自分のこととして体験するのはなかなか難しくて。それを僕たちは自分のことにしていかないといけないんです。

 鳴尾 定/桜木輝彦という男を演じるにあたっては、僕自身のトラウマや思い出したくない過去・記憶に触れていかないといけないなと思っています。それが彼を自分のこととして知るという意味で、すごく重要なことなので。大変きつい作業ではあるんですけれども、そういう部分から役への理解が進んでいきます。

「どれぐらいの境地に自分自身をもっていかないといけないのかな、どこまでいけば見える景色があるのかな」というのは、今までにないような、もしかしたら暗いトンネルのような時間が続くかもしれないです。

――役者さんならではの重責ですし、やりがいとも言えますね。

 役者としては自分の負の部分も含めて、言い方を変えると利用して、役に昇華していく時間なんです。それが大変であればあるほど、やりがいも感じますね。

2022.10.30(日)
文=赤山恭子
撮影=今井知佑
ヘアメイク=佐鳥麻子(Vitamins)
スタイリスト=高橋 毅