満足に動ける時間はそれほど長くないのかな
――50代の錦織一清の夢は何ですか? まだまだ体力はおありだと思いますが、インタビュー前編では、役者としての円熟味はもう少し年齢を重ねたいとおっしゃいました。
錦織 いや、体力はそうでもないです。今、動画配信サイトなどに、自分の若い頃の踊りの動画が上げられているじゃないですか。あれを観ると、やっぱりオーバーワークしちゃっているんですよね。そのツケが回ってきている。10代のころから背骨が変形していますし、足にもきてたりして、満足に動ける時間はそれほど長くないのかなとは思ったりしますけどね。騙し騙しやりますけど。
昔の動画を観た人から「錦織さん、なんであんなに踊れていたのに今は踊らないの?」って不思議がられるけど、それは年を取ったから。野球選手やお相撲さんなら、引退している年ですから。僕はビッグダディや亀田三兄弟のお父さんと同じ年なんですよ。それを分かっていただきたいんです(笑)。
でも今の夢は、既に始まっています。それは、どんな些細なことでもいいから、自分でプロデュースをすること。そして、喜びを感じるのは、やりたくないことをやらなくていいということ。独立したんだし、本当に自分の人生にしてみたくって。だから、もっともっとわがままを言わせていただこうかなと思ってます。
――大人になることの良さとは、そういったことかもしれませんね。
錦織 ある種、組織に属してると、自分の意志では断れないこともありますよね。僕はよく、「責任の行方と手柄の行方」という言い方をするんですけど、社会や組織では、手柄の行方と責任の行方が違うからぎくしゃくするんです。
演劇ってプロレタリアートな部分がある。僕がやっているのは、世直しではなくて娯楽だけど、演劇を通してお客さんと一緒に考えることが好きでね。芝居の中で取り上げたネタと、お客さんが世の中に対して思ってたことが一緒だったときに起きる笑いってものすごいですよ。それが僕は好きなんです。
――『サラリーマンナイトフィーバー』では、金銭欲や出世欲、見栄などに対して、落語のような風刺がきいています。
錦織 落語という文化はすごいですよ。噺家は一人で何役も演じるでしょう。今回は、笑福亭銀瓶さんにホームレス役で出演していただいていて、サラリーマン広瀬とのやり取りには僕なりの思いも込めました。銀瓶さんの間合いの取り方は、本当に参考になりました。
――錦織さんご自身の活動ですと、10月には植草克秀さんとのコラボライブがあります。踊りはキツくなったとおっしゃっていますが、歌うことは楽しみですか?
錦織 ええ、歌については、ある年齢を超えないと歌えない曲があると思っていますから。やっと、世の中にある曲の何パーセントか分かりませんけど、少しは歌えるようになったのかな、と捉えていますね。
――動画サイト等で少年隊の映像を発見して、錦織さんのファンになっている若い世代も多いそうです。親子連れでライブを楽しむ方も増えそうですね。
錦織 ああ、いいですねぇ。歌は詩を伝えるものなんじゃないかな、と僕はずっと思っていました。だから、踊らずに、止まって歌を歌うこともささやかな僕の夢なんです。これからはそんな気持ちに正直にやっていこうと思っています。
舞台『サラリーマンナイトフィーバー』
【公演スケジュール】
2022年10月28日(金)~30日(日)大阪松竹座
【スタッフ・キャスト】
作・演出:錦織一清
音楽:岸田敏志
振付:松田尚子
出演:錦織一清、純名里沙、渋谷天笑、舞羽美海、惣田紗莉渚、古原靖久、松浦 司、笑福亭銀瓶、室たつき、楢原じゅんや、アンジーひより、松村彩永
【チケット情報】
大阪松竹座公演のチケットは好評発売中!
チケットWeb松竹 https://www1.ticket-web-shochiku.com/t/
2022.10.04(火)
文=石津文子