「忘れられない日々が残っていく」のが理想
――『百花』も家族を描いた物語です。どんな人に届いてほしいですか?
この映画で描かれる家族はあくまでも一例ですけど、年齢問わず見ていただけると思います。特に、僕らの世代を含めた下の世代にとっては、いつか親の人間である姿を見る時が来ると思うんです。それに、最終的に親を見送って喪主を務めるのは自分になるんだろうなというイメージをするようにもなってきた。この映画をきっかけに、家族の間でコミュニケーションが増えるといいなと思います。
――『仮面ライダーW』で俳優デビューしてから13年です。これまでのキャリアを振り返ると、どんな日々だったと思いますか?
まだ振り返るには早いと思いますけど、まあ、いっぱいいっぱいでしたね。あんまり覚えてないです。もちろん関わった作品のことは覚えているし、断片的な記憶はあるんですけど、それ以外の日々をほとんど覚えていない。
それはそうですよね。撮影で3〜4カ月地方に行って、1日帰って次の日からは違う現場に行って、みたいな日々でしたから。ただ、それはそうしようと思ってやっていたこと。修行のような感覚でした。
――修行、とは?
僕の場合、俳優を志してはいたけれど、本気でやりたいと思って入ったわけでもないから。もともとたくさんすごい映画を見てきたわけでもなかったんです。いろんな流れや出会いがあって仕事を始めたので、デビューして数年経った頃に立ち止まる瞬間があったんです。同級生は就職したり、結婚したり、アメフト部の同級生が地元の消防団員になったり。そういう姿を見ていたら、「僕が今やっていることも仕事なのか」と改めて感じました。となったら、まずは勉強しなきゃいけないと思い、とりあえず修行とか新人研修みたいな感覚で、いろんな現場を経験しようと思ったんです。
――だからこそ記憶が曖昧だと。
そうですね。でも身にはなっていると思います。その間に出会えた人が沢山いるし、(CREA 2019年11月号「忘れらんねえよ」の柴田隆浩さんとの対談記事を見て)柴田さんだってそう。人との縁によって、当時を振り返ることができるのはありがたいです。
――記憶は大事に取っておきたいタイプですか?
大事なものは残したいですけど、メモしたりはしないです。それに、覚えようとして覚えたものって、すぐ忘れちゃう。それよりも、忘れられない日々ってあるじゃないですか。そういうものが残っていければ、理想なのかなって思います。
――すでに新人研修の時期は終わったと思いますが、仕事に対する原動力に変化は?
もちろん、家族のためにとか、物理的に仕事の仕方を変えなきゃいけないタイミングはあるかもしれないけれど、作品をやる上での意識は変わらないと思います。『百花』もそうですけど、どの作品も「これを今やらなきゃいけない」っていうタイミングがあるんです。僕が勝手に思い込んでいるだけかもしれないけれど、そこにあまり理由はないので。これからも「今だ」と思える作品に携わっていくと思います。
――波に乗って走ってきたようですが、監督やプロデュース業に挑戦するなど、自分から波を起こすことは考えていない?
僕はできれば人に任せて、自分のお芝居だけに集中したいです。あくまでも俳優部なので。実は僕、自分で決めた仕事ってほとんどないんです。音楽活動を始めたのも、声をかけていただいたことがきっかけでしたし。この13年で、いろんな分野におけるパートナーができたので、その人たちと変わらずに、ワクワクできたらいいなと思っています。
菅田将暉(すだ・まさき)
1993年2月21日生まれ、大阪府出身。近年の主な出演作は映画『糸』、『花束みたいな恋をした』、『キャラクター』、『キネマの神様』、『CUBE 一度入ったら、最後』、ドラマ「3年A組-今から皆さんは、人質です-」、「コントが始まる」、「ミステリと言う勿れ」、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」など。
映画『百花』
監督:川村元気、原作:川村元気「百花」(文春文庫刊)
出演:菅田将暉、原田美枝子、長澤まさみ / 北村有起哉、岡山天音、河合優実、長塚圭史、板谷由夏、神野三鈴 / 永瀬正敏
配給:東宝 / 海外配給:ギャガ
2022年9月9日(金) 全国公開
公式サイト https://hyakka-movie.toho.co.jp/
2022.09.16(金)
文=松山 梢
撮影=深野未季
ヘアメイク=Emiy
スタイリスト=伊藤省吾(sitor)