感性は今に受け継がれている
ただ、こうした新機軸の作品やつくり手は「突然変異的に生まれたわけではないと思う」とも。
「同様の視点は『風の谷のナウシカ』や、家族の物語を神目線で描く映画『ツリー・オブ・ライフ』にもある。そうした過去の作品から得た経験値を隠すことなく、現代的に解像度を上げて未来に繋ぐつくり手が増加してきたことが今の風潮。『怪獣8号』のような王道の人気マンガにも、過去の作品の様々な要素が凝縮されています。でも総集編的に集めただけではなく、オリジナルの要素がしっかりと載っている。エンタメの真ん中にいる方々がそういった表現を行っていること、そして大衆に受け入れられている状況に“芸術の力”を感じます。激変の時代でも、連綿と紡がれていく普遍的な何かは確かに存在する。先人や僕たちの世代が聖書や古い映画に想いを馳せたのと同じ感覚が、次世代にも受け継がれているんですよね。自分が関わる作品にもわずかでも希望の種があると感じられます」
取材に際して「自宅の本棚を前に『どのマンガを持参したらいいんだろう』と逡巡しました」と照れ笑いを浮かべる斎藤さん(そして選ばれた一冊が『I【アイ】』)。表現者としてのベースだけでなく、ゴールもマンガだと語る。
「映画は通過していく娯楽であることが定め。でも、マンガのキャラクターは読み手の中にしっかりと残る。実写では生の人間が展開することで予期せぬ狙いが生まれますが、マンガには作家の意志がダイレクトに反映される。『ONE PIECE』(尾田栄一郎/集英社)がそうで、各キャラの配分や配置、色味が非常に明確。最新出演作の『グッバイ・クルエル・ワールド』でも、登場人物の並びの中で自分の配置やバランスを考えて衣装の色味や演技の塩梅など提案させていただきましたが、これはマンガから得た思考法。役者、映像制作者としても“残る”キャラクター描写を目指したいです」
人間を多角的に捉えた3作
『I【アイ】』いがらしみきお
不思議な力を持つ少年と同級生が、神様を探す旅に出る。「Chim↑Pom from Smappa!Groupのエリイに紹介されたヤバすぎるマンガ。『ぼのぼの』のいがらし先生のイメージで読むと膝から崩れ落ちるはず。タブーに触れた名作」小学館 各693円 全3巻 ※電子書籍版
『チ。─地球の運動について─』魚豊
中世欧州で異端とされた、地動説を追究する人々の運命。「“通常”とされる何かが変わることがどれだけ大変か、自分の時代より先の未来をどれだけ見据えて行動できるか。従来のマンガにおける物事の捉え方を凌駕した作品です」小学館 650〜715円 全8巻
『葬送のフリーレン』山田鐘人 原作/アベツカサ 作画
魔王を倒した後の世界を舞台に、魔法使い・フリーレンの旅を描く異色ファンタジー。「物語の始まり方も斬新ですが、少年誌で掲載されることで、男性/女性向けで区分けする時代ではもうないと逆説的に示した点も印象的です」小学館 499〜550円 既刊8巻
映画『グッバイ・クルエル・ワールド』
互いに素性を明かさず、一夜限りの約束で結成された4人組の強盗団。彼らは大金の強奪に成功するが、ヤクザと警察から追われる羽目に。血で血を洗う狂乱の騒動に巻き込まれていく。
監督:大森立嗣
出演:西島秀俊、斎藤 工ほか
9月9日より全国ロードショー
https://happinet-phantom.com/gcw/
2022.09.12(月)
Text=SYO
Photographs=Erina Fujiwara
Styling=Shinichi Mita(KiKi inc.)
Hair & Make-up=Aki Kudo