ふたりの映画づくりとは? 現場では大きい声で主張した側が勝つ!?

──映像がレトロポップというか、フィルムで撮ったようなレトロな効果がありますね。

ク・ギョファン レトロ調というのは好きなんです。今回、そこをすごく意識していたわけではないんですが、言われてみればそうですね。こういう質感や色合いをフィーチャーしていきたいと思っています。

──今までおふたりで短編を作ってこられましたね。今回初めて長編を撮るにあたって、監督と、プロデューサー&主演、というふうにクレジットが別れましたが、具体的にはどのように分担されていたんでしょうか?

ク・ギョファン 基本的にシナリオはふたりで一緒に書いています。今までの短編もそうですが、ほとんどの場合は僕が出演もしているので、現場のモニターで演技をチェックしたりするのは難しいため、イ・オクソプ監督が演出は担当します。時々、「大丈夫かな?」って思う時もなくはないんですが(笑)、監督を信じるしかないですね。

監督 シナリオを一緒に書いていますので、その間によく話し合っています。現場では私が監督をしますが、たまには意見が分かれることもなくはないです。そんな時はOKしてもらえるように、大きな声で主張するようにしています(笑)。そんなふうにお互いに引っ張り、引っ張られ、しながら撮っていますが、だからこそ面白い場面が生まれたりするのでは、と思っています。

ク・ギョファン 実際に撮影現場で意見が割れてしまうと、あれやこれやと時間だけが過ぎてしまいますから、現場では大きい声で主張した側が勝つんです(笑)。

──キャスティングについて教えてください。主人公の看護師を演じたイ・ジュヨンさんは、最近では刑事を演じた『ベイビー・ブローカー』(2022)をはじめ、主演作『野球少女』(2019)も素晴らしかったですし、ドラマ「梨泰院クラス」(2020)などこの数年大活躍されていますが、それよりも前の段階でヒロインに抜擢されていますね。

監督 『夢のジェーン』(2016)という映画で、イ・ジュヨンさんのとても印象的なシーンがあったんです。それを観て、「この人を、もっと長く映画の中でフレームに収めたいなあ」と思ったんですね。その映画の主演は、ク・ギョファンさんなんです。

──韓国映画の大スターであるムン・ソリさんが、病院の副院長役で出ていますね。こちらもとてもユニークな役です。

監督 そもそも、私はムン・ソリさんの大ファンなんです。それである映画祭でお会いしたときに、連絡先をいただくことが出来たんです。そして、まだ出演が決まっていない段階で、すでに私はこの役にはムン・ソリさんをと思い描きながらシナリオを書いていました。この役は愛らしさがないと単なる嫌な副院長になってしまうのですが、ムン・ソリさんご自身が持っている可愛らしさを活かして演じてもらえたら、とても立体的な人物になるはずと思っていました。

──最近、『三姉妹』の公開時にムン・ソリさんにオンラインでインタビューをしたのですが、とても率直にご自身の考えを話してくれました。映画人として私は彼女をとても尊敬していますが、おふたりが尊敬している映画人を教えていただけますか?

監督 私は本当にムン・ソリさんを大尊敬しているんですよ。作品はもちろん全部観ていますし、インタビューなども、こういうふうに考えてこの役を演じたんだな、と全部覚えるくらい、読み込んでいたほどです。ものの考え方や、追求していることとか、ムン・ソリさんからはとても強い影響を受けました。

ク・ギョファン スティーブン・スピルバーグ監督です! 大好きなんです。僕は元々、面白い映画が好きなんですけど、スピルバーグ監督の作品はエンタメとして面白いのはもちろん、映画としてとても優ているので、観ていてすごく快感なんです。

監督 監督としては、私はマーティン・スコセッシ監督が好きですね。

──ク・ギョファンさんは、この数年、大ヒットしたドラマ「D.P. -脱走兵追跡官-」(2021)や「怪異」(2022)、映画では『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021)、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)など、俳優として大活躍されていますが、今後も映画をふたりで作るというスタイルは変わらず続けて行かれますか?

ク・ギョファン はい、そうですね。最近も、スター歌手のイ・ヒョリさんと短編を作りました。僕たちのYouTubeチャンネル「2x9HD」で、ご覧いただけます。もちろん、人の心というのは予測のつかないものなので、僕たちも今後どうなるかはわかりません。ふたりで一緒に作る時もあれば、各々で作ることもあるでしょう。その時々で、楽しみながら作って行きたいですね。

──今後、長編映画を撮る計画はあるんですか?

ク・ギョファン はい。計画はしていますよ。ぜひ楽しみにしていてください!

ク・ギョファン

1982年12月生まれ。製作から監督、脚本、演技まで全てをこなし、韓国インディーズ映画界で独自の地位を築く。演者としては『夢のジェーン』(2016)のトランスジェンダーの女性役で脚光を浴び、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)、『モガディシュ 脱出までの14日間』(21)といった大作映画、大ヒットドラマ「D.P. -脱走兵追跡官-」(21)や、「怪異」(22)、「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」(22)など、今最も多忙な俳優の一人に。本作『なまず』では製作、出演、脚本、編集を務めた。公私に渡るパートナーであるイ・オクソプ監督とは現在JAIHOで配信中の『四年生ボギョン』(13)、『監督!僕にもDVDをください!』(13/監督)、『フライ・トゥ・ザ・スカイ』(15)、『ロミオ』(19)など多くの短編でコラボレーションしている。

イ・オクソプ

1987年5月生まれ。韓国映画アカデミーを卒業後、『RAZ on Air(英題)』(2012)で注目を集め、その後『四年生ボギョン』(13)、『監督!僕にもDVDをください!』(13/撮影協力)、『フライ・トゥ・ザ・スカイ』(15)、『Girls on top(英題)』(17)、などの短編映画を演出。『なまず』は初の長編映画監督作で、第23回釜山国際映画祭ではCGVアートハウス賞など4冠に輝く。さらに、第44回ソウル独立映画祭観客賞、第14回大阪アジアン映画祭グランプリなど、内外の映画祭で受賞。

『なまず』

看護師ユニョン(イ・ジュヨン)の働く病院で、男女の合体した姿が映ったレントゲン写真が流出。ユニョンは自分と恋人ソンウォン(ク・ギョファン)の写真と誤解し、イ副院長(ムン・ソリ)は彼女に自宅待機を命じる。その頃、都心でシンクホールが出現する怪現象が多発。無職のソンウォンは埋め戻し工事のおかげで仕事にありつけたが、大切な指輪を紛失する。ユニョンは見え透いた嘘をつくソンウォンを疑う。ユニョンを癒やしてきたなまず(声/チョン・ウヒ)は、病院の水槽からそんなゴタゴタを見つめていたが──。

7月28日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
配給:JAIHO
https://namazu-movie.com/

2022.08.11(木)
文=石津文子