使命感を感じた作品との出会い

――キャリアのなかで、井上さんがいちばん苦労された作品を挙げるとするなら、「モーツァルト!」ということになるのでしょうか?

 やはり、ベスト5には入るでしょうね。キャリアの初めの頃はそれぞれの作品が吐きたくなるぐらい大変でしたけれど、ベスト1は蜷川(幸雄)さんのところで初めてやらせていただいた『HAMLET-ハムレット-』(2003年)だと思います。あのときに演じたレアティーズは、蜷川さんに相当シゴかれましたからね。世の中が真っ暗になるという絶望度でいえば、確実に、この作品です(笑)。

――それでは井上さんのキャリアの転機となった作品を挙げるとするならば、どの作品でしょうか?

 もともと、井上ひさしさんの作品が好きだったんですが、井上さんの最後の作品になった「組曲虐殺」(2009年初演)という音楽劇で、小林多喜ニ役をやらせていただいたときに、役者としての覚悟は変わりました。それまでは、ただ与えられた役を一生懸命演じて、いい評価をもらえるように、とだけ思っていたんです。でも、小林多喜二を演じると決まったときは、どこかで作品を託されたような使命感みたいなものがあって、それまで以上に全身で必死に演じなきゃいけないと。自分もよく知らなかった多喜ニの人生を、新しい世代に伝えなきゃいけないと思ったんです。ミュージカル俳優になる夢が叶って、10年ぐらい経ったときでしたが、神様に「この場所で続けなさい」と言われたような感じでしたね。

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2013.07.26(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Nanae Suzuki
hair&make-up:Tomio Kawabata
styling:Miho Yoshida