ミュージカル界を盛り上げたいという想いでユニット結成
――「組曲虐殺」が初演された2009年には、三十歳になられましたが、心境の変化などはありましたか?
やはりキャリアも積みましたし、自分の立場も変わったし、どこか楽になったような気がします。それまでの二十代は本当に大変で、日々ドキドキしながら生きていたんですが、三十代になって開き直る自信ができたと思うんです。昔は自信がないから、自分の芝居がヘタだと分かっていても、それが怖くて言えなかった。本当に仕事が来なくなるのが怖かったんです。三十代を迎えた頃からは、このような過去を振り返る取材を受けることで、「僕はこういう道を歩いてきたのかもしれない」と自分を客観的に見られるようになりましたね。
――今年5月には浦井健治さん、山崎育三郎さんとともにユニット「StarS」を結成し、CDデビューされました。「もっと、日本のミュージカル界を盛り上げたい!」という3人の切実な想いから結成されたんですよね?
ミュージカル界に対してこれまであまり疑問を持たずにやってきたんですが、もっと自分たち発信でやれることがあるんじゃないかと感じることも……。それを解決しようと思ったとき、もちろん自分は頑張りますけれど、自分だけで解決できないこともあると気が付きました。最近、よくする話なんですが……ミュージカルはアナログであるがゆえに、今の時代に強いジャンルだと思うんですけど、それに甘んじていてOKという状況でもない。お客さんは一人でも多い方がいいから、とにかくミュージカルの存在を知ってもらいたいんです。「芳雄さんがルドルフでデビューしてくれたから、自分たちの道が開けた」と言ってくれる後輩のためにも、豊かな土壌を育みたい。ほぼ同世代で思いを同じくする3人の仲間が集まったら、いろいろと解決できると同時に、何か大きいこともできるんじゃないだろうか、と思ったんです。
井上芳雄(いのうえよしお)
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。2000年、東京芸術大学音楽学部声楽科在学中に、ミュージカル「エリザベート」の皇太子ルドルフ役で鮮烈デビュー。以降、ミュージカルや舞台、初主演作『おのぼり物語』(10年)、『宇宙兄弟』(12年)などの映画にも出演。役者以外にも、ソロコンサートやディナーショー、ユニット「StarS」など、歌手としても活動。06年に第13回読売演劇大賞 杉村春子賞を受賞したほか、08年には第33回菊田一夫演劇賞を、13年には第20回読売演劇大賞優秀男優賞、第63回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。今後の予定として10~11月にこまつ座公演「イーハトーボの劇列車」が行われるほか、11月にコンサート「StarSありがとう公演~みんなで行こう武道館~」も控える。
ミュージカル『二都物語』
18世紀後半、フランス革命で揺れるパリで出会った、酒浸りの弁護士カートン(井上芳雄)、亡命貴族のダーニー(浦井健治)、イギリス人女性のルーシー(すみれ)。やがてダーニーとルーシーは結婚を誓う仲になるなか、密かにルーシーを愛していたカートンは身を引くことに……。
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2013年7月18日(木)~8月26日(月)、帝国劇場にて上演。
くれい響 (くれい ひびき)
1971年東京都出身。映画評論家。幼少時代から映画館に通い、大学在学中にクイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作を経て、「映画秘宝」(洋泉社)編集部員からフリーに。映画誌・情報誌のほか、劇場プログラムなどにも寄稿。
Column
厳選「いい男」大図鑑
映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。
2013.07.26(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Nanae Suzuki
hair&make-up:Tomio Kawabata
styling:Miho Yoshida