毎日100錠のサプリメントを飲み、実の息子の血漿を自らの体に流し込む……。まるで映画のような「人体実験」を、年間3億円もの巨費を投じて自らの肉体で実践している大富豪がいる。彼が追い求めるものは何なのか。 国際ジャーナリストの堤未果さんが、人間の尊厳について探る一冊『すばらしい新世界』スマホで赤ちゃんを注文する日より一部を抜粋してご紹介。

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18歳の肉体を取り戻す人体実験

 オンライン決済会社を、PayPalに8億ドルで売却し億万長者になったブライアン・ジョンソンは、それまでの生活をあっさりと捨てた。人生の目標を「不老長寿」に設定し直し、自らの肉体を実験台に、年間200万ドルかけて、ありとあらゆる「不老作戦」を実践し始めたのだ。

 徹底的に管理された運動と睡眠、厳しいヴィーガン食という基本の上に、毎日100錠30種の栄養サプリを服用、電気刺激に光療法、赤色光療法にハゲ防止のLEDヘアトリートメントと、山のようにあるメニューをこなしてゆく。

 目標は、18歳の肉体を再び手に入れること。若い血液輸血作戦も、もちろんすぐに実行した。

 一度で効率を最大限上げるために、17歳の息子の血漿を自分に、自分の血漿を70歳の父親に、3世代まとめて輸血する。

 この結果についてインタビューされたブライアンは、息子の血を輸血した自分は、そこまではっきり効果を感じなかったものの、父親の方はバイオマーカーの数値などから、老化速度が一気に25年ほど遅くなったから大成功だ、と満足げに答えた。

 他にも、南米の島まで行って未承認の遺伝子医療を受けたり、3億個の若い幹細胞を、肩、腰、関節に注射して臓器を若返らせるなど、ブライアンの若返りスケジュールは、ずっと先まで異常に忙しい。グローバル化した世界では、政府の規制や倫理的疑問を、国境を越えることでクリアできる。南米ホンジュラスの端にあるロアタン島の経済特区で、2万5000ドル支払えば、その日のうちに遺伝子治療を受けられる。

 製薬・バイオ業界は大喜びだ。通常、新しい遺伝子治療や幹細胞治療が市場に出るまでには、10年以上の歳月と巨額のコスト、厳しい規制当局の監視が必要になる。

 本来、製薬企業側が被験者に謝礼を払って行う実験を、ブライアンのような超富裕層が欲望のために「自ら金を払って」受けてくれるのは、業界にとって、リスクを個人に外注しながら果実だけ得る究極のビジネスモデルだ。

 年間200万ドルを投じて行われる100以上のバイオマーカー測定データは、「最もリッチな非公式臨床データ」になる。副作用で顔が腫れ上がった、特定の薬剤(ラパマイシンなど)を中止するプロセスさえも、1ドルも払わずに「失敗の教訓」として吸収できるのだ。

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