イーロン・マスク、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグ……。世界のトップに君臨するIT大富豪たちが今、こぞって巨額の資金を投じ、熾烈な開発レースを繰り広げている対象がある。私たちの「脳」だ。その市場規模は、近い将来“約60兆円”にのぼると試算されている。

 国際ジャーナリストの堤未果さんによると、2030年には高齢者の3人に1人が認知症や軽度認知障害になると言われる日本は、「脳ビジネス」の最大市場になるとされる。堤さんの新著『すばらしい新世界』スマホで赤ちゃんを注文する日より、一部を抜粋してご紹介。

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脳は、60兆円市場だ

 米投資銀行大手モルガン・スタンレーの試算によると、思考をテキスト変換する脳内チップ技術の対象を、脳卒中やALSだけでなくパーキンソン病やアルツハイマーも含めた合計1000万人の患者に普及させた場合、その市場規模は約60兆円になるという。

 イーロン・マスクが目指すのは、これを脳に埋め込むことで、ほとんどの人が一度は経験する、うつ病や睡眠障害、認知症のような「脳の異常」を、全てAIが解決する近未来だ。

 「Donʼt Die(死ぬな)運動」のブライアン・ジョンソンも、2016年に脳と機械を接続して認知機能を強化する研究会社カーネルを、1億ドルで立ち上げている。

 ここ十数年で躁うつ病を含む気分障害患者が2倍以上に増え、4人に1人が慢性的な不眠、厚労省の推計では2030年には高齢者の3人に1人が認知症や軽度認知障害になると言われる日本は、脳内チップの最大市場になるだろう。

 2019年にはフェイスブック(現・メタ)創業者のマーク・ザッカーバーグが、脳の電気信号から思考を読み取る装着型デバイス構想を語り、Amazonのジェフ・ベゾスとマイクロソフトのビル・ゲイツが出資するシンクロン社も、自社の脳内チップをすでに10人に埋め込み済みだ。

 シドニー工科大学の研究チームが開発したのは、頭に装着するだけで2種類のAIが脳波を読み取りテキストに変換するAIヘルメット。頭蓋骨に穴を開ける必要すらない。

 アメリカで派手に開発が進むこの分野、黙っていないのは中国だ。中国では脳チップ研究班が2025年3月までに3人目の脳埋め込み手術に成功し、2026年には約50人の脳に埋め込む予定になっている。熾烈な〈脳内チップ埋め込みレース〉が、世界規模で繰り広げられているのだ。

 老いた脳を若返らせることも、薬で感情を調整することも、やがて脳そのものをアップグレードすることでまとめて解決する──そんな論理が、シリコンバレーの投資家たちを突き動かしている。

 だがその先には、この技術が開くもう一つの扉があった。

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