文豪ディケンズの小説「二都物語」をミュージカル化した「二都物語」で、主人公のシドニー・カートンを演じる井上芳雄。“ミュージカル界のプリンス”の異名を持つ彼が、前回前々回に引き続き自身のキャリアを振り返る最終回では、最新ミュージカル「二都物語」への熱い思いや、今後の展望を語る。

ミュージカル界に吹く、新たな風に一言

――井上さんが今年5月に浦井健治さん、山崎育三郎さんとともに結成したユニット「StarS」。ファーストアルバムのCDセールスはオリコンウイークリー7位を記録し、コンサートも成功しました。ミュージカル界に変化のようなものを与えることができたと思いますか?

 まだ何かを大きく変えたわけではないですが、当初思ったよりいい結果が出たと思います。僕たちは、良くも悪くも、ミュージカルにマイナー感のようなものを持っていたんですが、順位や売り上げのような数字が出てきたときに、そこまでメジャーとの差がないのかもしれないと感じられました。劇場で手売りができる自分たちの強みもあるし、もっと頑張れるかもしれないとも思っています。「StarS」はいわゆる打ち上げ花火のようなものかもしれませんが、これで終わるつもりはなくて、11月には日本武道館でのコンサートも決まりました。

――以前、このコーナーに登場していただいた古川雄大さんや平方元基さんは、奇しくも井上さんの後に「エリザベート」でルドルフ役を演じています。彼らのように、もともとTVや映画で活躍していた俳優たちがミュージカル界に進出し、新しいお客さんを連れてくる。近年、そんな新しい風が吹いていますが、井上さんはその変化をどう思われますか?

 僕がデビューしたときって、俳優もお客さんも、あまり若い人がいなかったと思うんです。ミュージカルってトレーニングが必要なので、俳優としてもハードルがあるし、お客さんからも、見に行くにはハードルが高いと思われていました。僕が想像するに、その後、「テニスの王子様」などのより親しみやすい題材を扱ったミュージカルが生まれたことにより、タレントや俳優志望の方たちがミュージカルを経験しやすくなった。そういうワンクッションができたことによって、俳優はトレーニングができるし、お客さんの中にもどこか偏見がなくなってきた。しかも、そんな若くて魅力的な俳優たちが一生懸命やっている姿に惹かれたお客さんたちが、僕らのミュージカルにも来てくださるようになったんです。本当にいい傾向になっていると思います。自分にとっては背中を押されることですし、ジャンルが広がるのはいい流れではないでしょうか。僕自身もド下手な新人からお客さんに育てられてきましたし。層の厚さというのがそのジャンルの豊かさにつながると思うので、今後も彼らのような存在は必要だと思いますね。

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2013.08.02(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Nanae Suzuki
hair&make-up:Tomio Kawabata
styling:Miho Yoshida