僕は役に人生を教えてもらっている
――それではミュージカル俳優として、参加してみたい作品はありますか?
「オペラ座の怪人」は作品自体好きということもありますし、主人公のファントムのように見た目にも心にも傷を持っている役はあまりないですし、彼の悲哀に惹かれますね。ただ、自分と役は別モノとはいえ、あまりに素晴らしい人を演じるときに、こんな自分でいいのか、と自分が恥ずかしくなることがあるんですよ(笑)。少しでも役に近づけたいと思う気持ちがあるということは、役に人生を教えてもらっているのかな、と思いますし、それをするのが僕の仕事だと思いますね。
――最後に、デビューから13年。帝国劇場やシアタークリエなどの劇場が集まる日比谷に通い、演じ続けてきた井上さんにとって、日比谷はどんな街に映っているのでしょうか?
結果、このようになっていますけれど、正直なところ、来年日比谷での仕事があるか分からない。だから、愛着を持つような感じよりも、どこか危機感の方が強いんです。でも、デビュー当時は亀有から千代田線で日比谷まで通っていた僕が、今日初めてこのビル(日比谷の東宝本社)の駐車場に自分の車を止めたんですよ。そういう自分の環境の変化には、いろいろ気付かされることはありますね。まぁ、思いっきり迷ってしまったんですけど……(笑)。
井上芳雄(いのうえよしお)
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。2000年、東京芸術大学音楽学部声楽科在学中に、ミュージカル「エリザベート」の皇太子ルドルフ役で鮮烈デビュー。以降、ミュージカルや舞台、初主演作『おのぼり物語』(10年)、『宇宙兄弟』(12年)などの映画にも出演。役者以外にも、ソロコンサートやディナーショー、ユニット「StarS」など、歌手としても活動。06年に第13回読売演劇大賞 杉村春子賞を受賞したほか、08年には第33回菊田一夫演劇賞を、13年には第20回読売演劇大賞優秀男優賞、第63回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。今後の予定として10~11月にこまつ座公演「イーハトーボの劇列車」が行われるほか、11月にコンサート「StarSありがとう公演~みんなで行こう武道館~」も控える。
ミュージカル『二都物語』
18世紀後半、フランス革命で揺れるパリで出会った、酒浸りの弁護士カートン(井上芳雄)、亡命貴族のダーニー(浦井健治)、イギリス人女性のルーシー(すみれ)。やがてダーニーとルーシーは結婚を誓う仲になるなか、密かにルーシーを愛していたカートンは身を引くことに……。
www.tohostage.com/nito
2013年7月18日(木)~8月26日(月)、帝国劇場にて上演。
くれい響 (くれい ひびき)
1971年東京都出身。映画評論家。幼少時代から映画館に通い、大学在学中にクイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作を経て、「映画秘宝」(洋泉社)編集部員からフリーに。映画誌・情報誌のほか、劇場プログラムなどにも寄稿。
Column
厳選「いい男」大図鑑
映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。
2013.08.02(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Nanae Suzuki
hair&make-up:Tomio Kawabata
styling:Miho Yoshida