人生において外せない、大分で過ごした時間

――特にお気に入りのカットは?

 ロケーションでいうと、やっぱり祖父母の家での撮影が一番お気に入りです。今までの人生を振り返ったときに、大分で過ごした期間は外せない時期なので。

 福岡に帰省したときに車で大分までお墓参りに行くのですが、それでも訪れたのは2〜3年ぶりでした。

――「外せない時期」というのは?

 年齢や経験を重ねるごとにどんどん自分を更新している感覚があるのですが、根っこにある感性やお芝居をする上での感覚は、小学校に上がる前まで過ごしていた大分で培ったような気がしているんです。

 山の麓の本当に何もない場所にあるのですが、一輪のリヤカーに乗せてもらって畑に行って、祖父と一緒に耕したり、夜ご飯のために大根をゲットしたり。その帰りにセミを採ったこともありますし、家の目の前の川でよく釣りもしました。本当に楽しかったですし、そのときの綺麗な景色は今でもよく思い出します。

――おじいさんとおばあさんはどんな方だったんですか?

 祖母はお客さんが来ると三つ指をついて挨拶するようなすごく品のある人で、お裁縫がすごく得意でした。家にはミシンが置いてある部屋があって、小さい頃は洋服をたくさん作ってもらいました。

 反対に祖父はすごく陽気で、孫たちが夜寝ていると、床の間に置いてある高そうな置物を持って脅かしに来たりするんです。ゲームもなにもない家でしたけど、おかげで退屈することが一度もなかったですし、充実した時間を過ごせました。

 自分が60〜70歳になって孫ができたときに、果たして自分は何をしてあげられるんだろうとも考えるんです。一から作物を作ったり、一から洋服を作ったりする姿を見せてくれた祖父母は、私にとってすごく大きい存在ですし、「こうありたい」と思える理想像でもあります。

――すごく豊かな時間だったんですね。

 本当に穏やかで豊かで尊い時間でした。今も恋しくなりますし、よく帰りたくもなります。普段は東京でせかせかと暮らしていますが、そこでは急かされる要素がゼロ。人としての当たり前の生活リズムを思い出させてくれる場所です。

2021.12.22(水)
文=松山 梢
撮影=杉山拓也
ヘアメイク=石川奈緒記
スタイリスト=李靖華