映画監督・安藤桃子さんの半生を振り返るエッセー集『ぜんぶ 愛』が2021年11月5日(金)に刊行された。

 映画ロケで訪れた高知にわずか3秒で移住を決めた瞬間から、家族のことや、映画のことや、生活のこと……。安藤さんの身に起きたあれやこれやがギュっと詰まった一冊はまるで人生を追体験したかのよう。

 本の中でも綴られている、高知への愛、家族への愛……というかすべてのものに対する安藤桃子さんの溢れんばかりの“愛”を聞いた。


ホップ、ステップ、ジャンプの3秒で移住を決めました

 映画『0.5ミリ』のロケですっかり惚れ込んでしまった高知。撮影のあと、父と一緒に高知を訪れて、ビルの屋上から市街を見渡していた時、「最先端はここだ!」と3秒で移住を決めました。そして父に「ここから革命を起こします。だから高知に移住します」と宣言したんです。

 3秒なんて大げさでしょうと言われますが、本当にホップ、ステップ、ジャンプの3秒(笑)。ホップで街を見て、ステップでここに暮らそうと思って、ジャンプで決意が自然と口から出てきました。

 その前から心は動いていたんですが、「ここから私はやりたいことをやっていくんだ」という実感が湧いてきたのはその時。土佐の先人たちの思いが、私に「革命」という言葉を使わせたのかもしれません。

 もともと私は考える前に手を挙げるタイプ。こうしたいと思ったらまず口に出すし、具現化するための一歩を大切にしています。もし失敗しても次に生かせばいいし、その失敗にもきっとよき学びがある。そう考えるのも、本当は失敗するのが誰よりも怖いからです。もし怖がって躊躇したらできなくなってしまうけれど、その一瞬のチャンスを逃したくない。だから、先にやりますと言ってあとから考える。これがまた高知という土地柄とフィットしていました。

 高知に移住したら、いろんな先輩方が口を揃えて言うのは「とにかくやってみようや」「走りながら考えようや」。

 東京にいた頃だったら、なに突っ走ってるんだとか非常識とか言われたようなやり方ですが、高知は真逆で奇想天外。移住前から常識を覆されるような経験が訪れて、新しい視点を開いてくれています。

 それというのも、太平洋が目の前にあって背後に四国山脈があって、自然界と近い暮らしをしているからかもしれません。ちょっとやそっとのことでは抗えないこの大自然に包まれると、人と人との関係の中では真心さえあれば失敗なんてないよ、むしろ失敗してなんぼという気持ちになってきます。

高知にいると、まるでマリオがスターを取ったかのよう

 移住して感じるのは、高知で何か物事を起こそうと思ったら東京の5倍も10倍も早く物事が展開していくことです。ママチャリ30分圏内に生活の全てが揃う物理的な距離の近さもあるし、みんな行動が早い。

 仕事の話をするにしても、相手に連絡すると「来るならおいでや」ってその場で即話がまとまってしまうこともしばしば。人を紹介してもらうにも、今相手に連絡してあげようか? って言ったら、本当に「今」。その場で電話して繋いでくれる。だから話が早いんです。

 もちろん、都会ならではのスピード感というのもあって、東京では高知の人の駆け足くらいの速さでみんな街を歩いていますよね。その中でも人一倍早い私が、そのスピード感と高知の風通しのよさを掛け合わせたら、めくるめく展開が待っている。東京で企画を立てたら3年越しのことが数か月、10年越しのことが2年で実現してしまうミラクルスタンダード。まるでずっとマリオがスターを取ったかのような無敵状態になれる。

2021.12.05(日)
文=嵯峨崎文香
撮影=今井知佑