妹のサクラが生まれた時、はじめて愛を意識しました

 思い返してみれば、私が人生ではじめて「よし、やるぞ」というイメージを持ったのは5歳、妹のサクラが生まれた時のことでした。

 4歳離れていると、お姉ちゃんは生まれたばかりの赤ちゃんに母親の愛情を取られたような気分になると言いますよね。そこで母は、誕生のお祝いの代わりに、桃子がお姉ちゃんになっておめでとうのお祝いにして欲しいとまわりにリクエストしたそうです。

 私にしてみれば、よくわからないけれど新しいお洋服はもらえるし、すごく祝われてるし、もうやる気しか出ないわけです。母の思惑は見事的中。「この子か、よし」と思った私は、それはそれは妹を可愛がって「私の赤ちゃんに触らないで」と守っていたそうです。

 当時の写真を見ると、サクラは私に背後から抱っこされてお人形のようにされるがままになっている。監督と女優に分かれたのは天命じゃないかと思います(笑)。

 5歳の私が、愛をはじめて意識した出来事です。だから、自分が出産した瞬間も、「あ、知ってる!この感覚」ってまず思いました。

一周回って、今、世界は「愛」なんです

 今回の本のタイトル、直前までは「魂じゃっかんぬけてました」だったんです。なかなかいいフレーズだな! って意見も多かった。でも、どうにもこの本のタイトルとしては腑に落ちなくて。とはいえいくら考えてもいいタイトルが出てこなくて、とうとう「今、この電話で決めてもらわないと本が出ません」って担当編集者さんに言われちゃったんです。

 もう切羽詰まって泣きそうになってしまって、いや、実際泣きました(笑)。どうしよう、これでは本が出ませんって言われちゃったって思った時、「ん? ちょっと待てよ。そんなもんか? 私の覚悟は⁉ 出ないほうがましだ!」ってひらめいたんです。ごめんなさい(笑)。

 タイトルが腑に落ちないのに世に出すなんて、そんな無責任なこと私にはできない。「すみません。今回はタイトルが決まらないので本は出しません。印刷所さんにも私が謝ります。以上です」って連絡しようと決めました。

 そう腹を括ったらすっきりして、「この本はここまで頑張ったけれど出ないんだ。そうかそうか、面白いな、人生そんなこともあるのか。はあ、それすらもぜんぶ愛だな」って思ったんです。

 ハッ! ぜんぶあい? え、ちょっと待って、もしかしてこれが本のタイトル!? ってその瞬間ストーンと腑に落ちて、全てがうまくはまりました。

 よし、これだ。すぐ電話して伝えようと思ったわけですが、そこでまた考えてしまった。そういえば、愛という言葉を使うのは恥ずかしいって話もしてたことがあったっけ。もはや時代遅れだって言われたような気もする。でも、私にはもう愛しか見えません。こう伝えることにしました。

 「時代遅れなんかじゃない。時代が一周して、今こそ愛って叫ぶような存在が必要なんだ。生まれてきたこと自体が愛なのに、なんで愛って言えない社会になっているのか。その勇気が出なかった自分だからこそこのタイトルを叫びたい! 一周回って最先端はぜんぶあいーー!」ということで「ぜんぶ 愛。」というタイトルになりました(笑)。

2021.12.05(日)
文=嵯峨崎文香
撮影=今井知佑