高知と娘が「愛」の境地にたどり着かせてくれました

 こう言えるようになったのも、もちろん高知のおかげです。高知の人は「全部愛やき」とか、「全部必然やき」とか自然と口にするんです。娘も私の目をまっすぐ見て「ママ、愛してるよ」って言ってくれる。こうやってまっすぐに「愛」っていうのが普通だよねっていう感覚になってきたんです。

 タイトル変更の一件で気づいたのは、人間、困ったときは全てを一回リセットして、力を抜いたほうがいいということ。こうしたい、こうしよう、こうしなきゃって力が入ってるときは、いい解決策がふと降りてこない。「ふと」という言葉があるように、ふっと力を抜いた瞬間に、本質は浮かび上がってくるんですね。

 日本人は力を入れて頑張ってきたから、お風呂に入って「はーっ」というような力の抜き方が大事なんだなと。今の社会はコロナもあって、誰もが緊張の連続だと思うんです。だから、1日に1分でいいから、力を抜いてふっと柔らかくなる瞬間が必要。私も必要だし、みんなきっと必要なんじゃないかと思います。この本を読んでほっとしたというありがたい言葉もいただくので、ぜひ力を抜いていただきたいです。

安藤家でも、愛で大革命が起きました

 そして、安藤家には大きな革命が起きました。父、奥田瑛二はずっと愛という言葉を否定して生きてきたんです。ところが私の本がこのタイトルになったことで、このたび奥田瑛二の中で愛が全肯定の言葉に変わりました。そうしたら、家庭内がとても平和になったんです。

 「お父さんが本当に優しくなった」と妹は嬉しそうだし、母は涙ぐんでいたらしい。愛で革命が起きた! 安藤家内の個人的な話ですが、これはものすごい大革命でした。

 3年前、全ての子どもたちの笑顔と未来を考えるために異業種チーム「わっしょい!」を立ち上げました。味噌づくりや畑づくりを中心に、様々な立場の人たちが集まって活動 の幅を広げています。

 このわっしょい! が、今の私の心臓になっている部分です。「生きとし生けるすべての命が幸せで、子供たち全員が夢を叶えて笑顔でいられる世の中を見る!」というのが私にとってひとつのゴールで、だからこそ映画表現があると思っています。

 そう、新作も早く撮りたい。

 高知で大自然と大きな愛を感じながら、やりたいことが次から次へと湧いてくる状態です。

安藤桃子

映画監督。1982年、東京都生まれ。ロンドン大学芸術学部卒。高校からイギリスに留学、大学卒業後はニューヨークで映画作りを学び、助監督を経て2010年『カケラ』で監督・脚本デビュー。2011年、初の長編小説『0.5ミリ』(幻冬舎)を上梓。同作を自らの監督・脚本で映画化し、多数の賞を受賞。2014年、高知県へ移住。ミニシアター「キネマM」の代表を務めるほか、子どもたちが笑顔の未来を描く異業種チーム「わっしょい!」では、農・食・教育・芸術などの体験を通じ、全ての命に優しい活動にも愛を注いでいる。

ぜんぶ 愛。

定価 1650円(税込)
集英社インターナショナル
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2021.12.05(日)
文=嵯峨崎文香
撮影=今井知佑